働きがいとは(その1)

以前のブログで、「日本の停滞の原因を探る」というシリーズをやりました。その番外編で、労働生産性の話をし、さらに労働生産性を左右する要因の一つとして「労働の質」というものがあることに触れました。「③ 労働の質とは、ちょっと難しい概念ですが、学歴や経験やモチベーションで変化する生産性だと考えてください。」

今回は、このモチベーションに関する議論です。最近の調査/研究で、日本人の会社におけるモチベーション、つまり「働きがい」が先進国の中で最低レベルで、しかもこの何年間ほとんど停滞しているということが分かってきました。議論をちょっと先取りして、2つのグラフを並べてみます。上が「働きがい」のスコアで下が、おなじみの平均賃金の比較です(2015年以降を切り出しました)

【このブログの骨子】

  • 今の日本人サラリーマンは受け身の真面目さはあっても、自発的に仕事に向き合う積極性に欠ける。
  • (その結果として)職場で「わくわく感」よりも、「心配不安」などの負の感情を感じる時が多い。
  • これは経営が、社員を守ると称して社員の能力開発に投資してこなかった「飼い殺し状態」(いつわりの優しさ)が招いた結果である。
  • 社員の「働きがい」の向上には、彼らの自己決定権の尊重、その能力開発が重要で、ジョブ型雇用の流行は経営の意識変化を表している。
  • しかし幼い時から「自己決定しないこと」に慣らされてきた日本人に、それが可能だろうか?

◯日本企業の「偽りの優しさ」 自己決定重視に転換を 

2022年4月17日 13:00 [有料会員限定]

アジア太平洋14カ国・地域を対象にしたパーソル総合研究所の調査では「現在の職場で継続して働きたい人」も「転職意向のある人」も日本が最低だった。つまり今の仕事にたいして愛着はないが、かといってそこを抜け出して新天地に飛び込むほどのエネルギーもない。そんな無気力さが浮かび上がる結果である。

米ギャラップによると、熱意をもって仕事に取り組むさまを示すエンゲージメント指数で日本は139カ国のなかで132位に沈んだ。日本人には受け身の真面目さはあっても、自発的に仕事に向き合う積極性に欠けるのだ。

「楽しい・わくわく」「自信・誇り」といった正の感情より「心配・不安」「怒り・嫌悪」など負の感情をより多くの人が職場で頻繁に経験する 、そんな結果を報告したのはリクルートマネジメントソリューションズ(RMS)だ。ネガティブな感情が支配する職場から、大きな成果が生まれないのは自明である。

以前は仕事熱心と称賛された日本人が、なぜこんな事態になってしまったのか。

人的資本の重要性を唱える一橋大学の伊藤邦雄CFO教育研究センター長は「日本の経営者は『人に優しい』という言葉の意味を取り違えてきたのではないか」と指摘する。経営不振の事業があってもそれを閉じたり売ったりするのは「社員がかわいそう」と尻込みする。経営人材の早期選抜に消極的な会社が多いのも「選に漏れた人がふびん」というある種の恩情がある。

とはいえその事業や人を本気で育てるつもりはないので、経営資源は配分しない。結果は「ビジネスはじり貧。社員は飼い殺し状態になり、自己研さん意欲も湧かない。こんな誰も得しない状態が多くの会社で長く続いてきた帰結が今の停滞ではないか」と伊藤氏はいう。

こうした偽りの優しさから抜け出して、職場を活性化するキーワードが「自己決定」だ。

働く人一人ひとりが自らの選択に覚悟と責任を持ち、自律的にキャリア形成するのが本来の姿である。人事部の言いなりではなく、自ら選んだ仕事なら熱心に取り組むのは当然だ。「やらされ感」から解放され、生き生きと仕事をする人が増えれば、職場と会社は活気を取り戻す。

仮に失敗しても自発的な挑戦ならそこからの「学び」は大きいはずだ。最近のジョブ型雇用の流行は、日本の職場でもついに自己決定の重要性が認識され始めた証しである。自分の進路に迷う若い世代には、選択を手助けする環境整備が会社の役目だ。

◯働きがい改革、道半ばの日本 「仕事に熱意」6割届かず

2022年5月1日

政府が16年に働き方改革を打ち出して以降、日本企業は長時間労働の是正など「働きやすさ」の面では改善が進んだ。厚生労働省によると、労働者1人当たりの年間総実労働時間は20年に1685時間と16年比5.5%減。有給休暇取得率は7.2ポイント上昇の56.6%と過去最高になった。

だが、働きがいの面では改善がみられない。社員が会社を信頼し貢献したいと考えることを「エンゲージメント」と呼ぶ。人事コンサル大手、米コーン・フェリーがグローバル企業に20~21年に実施したエンゲージメント調査によれば、働きがいを感じる社員の割合は日本が56%と、世界平均を10ポイント下回る。23カ国中、最下位が過去6年続く。

背景には、日本企業の組織運営の改革遅れがあるとみる専門家は多い。コーン・フェリー日本法人の岡部雅仁シニアクライアントディレクターは「上意下達の組織風土や年功序列によるポスト滞留など、旧来型の日本型経営が社員の働きがい低迷に影響している」と分析する。

「個人の創意工夫の範囲が狭まっていたり、現場に権限委譲が進んでいなかったりするのも要因」(リンクアンドモチベーション)との指摘もある。経団連も「社員のエンゲージメントを高める取り組みが必要」とする。

社員の働きがいは企業業績にも影響する。パーソル総研と慶応大学の前野隆司教授の19~20年の調査によると、働くことを通じて幸せを感じる社員の多い企業で売上高が伸びたのは約34%。幸せを感じる社員の少ない企業で売上高が伸びた割合(約25%)を上回る。

■エンゲージメント

一般には約束や契約を意味するが、人事分野では「働きがい」を指す。大きく分けて、社員と会社が信頼して貢献し合う状態を示す「従業員エンゲージメント」と、仕事にやりがいや熱意を持ち生き生きとしている状態を示す「ワークエンゲージメント」の2つがある。生産性改善や社員の離職防止などにつながるとして、重視する企業が増えている。

田中道昭立教大学ビジネススクール 教授

働きがいで重要なことは何でしょうか。ギャラップ社5日間プログラムを米国で学びましたが、導入企業ではQ12と呼ばれるエンゲージメントサーベイを実施し、その向上を図っています。Q3「職場でもっとも得意なことをする機会を毎日与えられている」が象徴的であり、社員の強みを見極め、伸ばしていくことが重視されています。これがジョブ型人事の重要点です。そしてQ8には「会社の使命や目的が、自分の仕事は重要だと感じさせてくれる」があり、会社のミッションへの共感とそこから得られる自分の仕事への自己重要感が重視されています。最後のQ12「この1年のうちに、仕事について学び、成長する機会があった」も働きがいに重要です。

室橋祐貴日本若者協議会 代表理事

日本の幸福度の低さの大きな一因は「人生の選択の自由度が低い」ことですが、これまでの日本ではある程度成功や「正しい」とされるルートが決まっており(高学歴、大企業など)、自分の意思で自分のことを決めるという「自己決定権」の尊重は軽視されてきました(校則など様々な問題の根底にあります)。そのため、自分が何を大事にしているのかという自己理解に欠けている人が多く、そのために「働きがい」を見出しにくいのだと理解しています。これを変えていくためには、配属先や転勤先など様々な場面で自己決定の機会を委ねること、教育現場や家庭でも自己決定を尊重するなどの取り組みが必要だと考えています。


エンゲージメント、ジョブ型経営に、「自己決定」「自己決定権」・・・これらの言葉は、全てアメリカの経営学から輸入された言葉です。そもそも日本の文化にそういう価値観や発想は無かったことの証ではないでしょうか。成長期の日本は、経営者自体が冒険心、挑戦心に溢れていました。それがなければ欧米に追いつけなかったからです。職場でも、会社への貢献が即、自分の賃金や待遇に反映されたので、社員は「働きがい」があって当然でした。

「鶏か卵か」の話になってしまいますが、成熟し低成長の日本で経営者も社員も、いまだに「新しい働き方」が見つけられていません。繰り返しになりますが、家庭や学校での大人の価値観の転換が何よりも重要です。「知識」よりも「好奇心」、「安定」よりも「冒険」、「みんな」よりも「私」なのです。(K)

        共生社会の実現をめざします!

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