大学は、日本育ちの外国人に狭き門(その1)

今日、「外国人との共生社会の実現」というテーマは、モラルの観点からも日本経済の成長という観点からも、否定する人は少なくなったと言えるでしょう。しかし、「共生の実態はどうなっているのか?」という点に関心を持つ人は、当事者以外ほとんどいません。

コロナ禍の水際対策で、日本が外国人の留学や就労にとって世界でもまれにみる「狭き門」である実態が明らかになりました。しかし、日本で生まれ育った「家族滞在」という在留資格を持つ外国人の子供たちにとって、大学進学がいかに狭き門であるかは、余り知られていません。今回と次回の2回に分けて、この問題を取り上げます。日経の記事は少し古いのと、やや長めの引用になります。

【このブログの骨子】

  • 「家族滞在」の外国人の子弟は、日本人と全く同じ土俵で大学入試に臨まなければならない。
  • 外国人向けの「留学枠」は、日本語が不自由でも入りやすい。しかしその枠に日本の高校を卒業した外国人は原則として入れない。日本語の不得意な生徒向けに定員枠を設ける国立大は宇都宮大学しかない。
  • 日本学生支援機構の奨学金は「家族滞在」の外国人は対象にならない。
  • 多文化で育った若者は企業が求めるグローバル人材の候補生である。外国にルーツのある人が企業や社会の中枢に入れないままでは本当の『多文化共生』は実現しない

〇日本育ちの外国人学生、才能が埋没 大学入試で蚊帳の外

2021年8月27日 [有料会員限定]

東京都立高で進路指導を担当する教員は、3年前に大学進学を断念した中国出身の生徒の落胆ぶりが忘れられない。

難解な文章の読解が求められる国語などのハードルが高く、一般入試は断念。作文や面接で選抜する私立大のAO入試に挑戦した。

担任教諭が作文指導するなどして備えたが、本番では出題内容が十分に理解できず、結果は不合格。自身の力不足を嘆いた生徒は他の大学への出願も諦め、就職先も決まらないまま卒業していった。

同校では中国やネパール、フィリピン籍などの生徒がおり、大部分は大学などへの進学を希望して入学するが、3年時に3~4割が諦めるという。

日常会話は流ちょうでも体系的な日本語指導を受けておらず、読み書きが苦手な子は多い。教員は「日本人の受験生と勝負するのは難しい。毎年、合格できるのは優秀な数人程度」と話す。

日本で育った外国出身者にとって狭い大学の門。各大学は外国人向けに留学生枠を設けているものの、多くは日本の高校卒業資格に基づく応募を認めていない。

こうしたなか、宇都宮大は2016年度入試から、小論文や面接などで選考する「外国人生徒選抜」を実施している。例年10人前後が受験し、中国やブラジルの出身者ら4~5人が入学。大学院に進学した卒業生もいる。

田巻松雄教授は「多文化で育った若者は企業が求めるグローバル人材の候補生」と指摘。「学ぶ意欲や才能はあるのに、日本語が不得意なため一般入試の国語や社会でこぼれ落ちてしまうのは惜しい」と導入の狙いを語る。

日本で育った外国出身者向けに定員枠を設ける取り組みは現在、国立大では宇都宮大に限られる

ある関東の大学教員は、導入の是非を議論した学内の会議で「できの悪い学生を入学させるのか」と幹部にたしなめられた。

「能力がありながら日本語で十分に表現できない若者に道を開くのが目的だが『ゲタをはかせれば学生の質が下がる』という誤解が根強い」と嘆く。

言葉の壁だけではない。年間120万人以上が貸与を受けている日本学生支援機構の奨学金は在留資格が「家族滞在」の場合、「永住が不確実な人を対象にしていない」(同機構)ため申請資格がない

別の都立高教員の角田仁さん(58)は「経済的に豊かでない家庭の子どもも多い。学費が工面できずに進学を諦めたり、苦労して入った大学を中退したりしてしまう」と話す。

上智大の稲葉奈々子教授(国際社会学)は「潜在能力が高く、高度な教育を受ければ伸びる人材は多いが、国や大学側が気づいていない。外国にルーツのある人が企業や社会の中枢に入れないままでは本当の『多文化共生』は実現しない」と訴えている。


令和2年末時点で、「家族滞在」の在留資格で日本に暮らす外国人の数は、およそ196,000人です。これには配偶者も含まれますから、高校生以下は、文部科学省が2019年に行った義務教育課程の外国人就学生数の調査と合わせて、14万人くらいと推定できるでしょう。

小学生相当中学生相当不就学児
87,033人36,797人19,471人
(推定値)

そのうちの大学進学者数の統計はないので、実態を数で表すことはできませんが、今回の記事を読む限り、進学率は相当低いと思われます。日本に定住し、あるいは永住する外国人の数は、年々増大しています。義務教育課程の日本語教育のサポートがままならない中、日本の大学進学を断念する子供たちが日本を離れていく(Japan Leaving)は、Japan Passing(留学や就労で日本を選ばないこと)の一部とみなすことができるでしょう。(K)

        共生社会の実現をめざします!

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