人口減を考える視点(その3)=子育てに非寛容なのはなぜ?

「人口減を考える視点」の1回目では、少子化の加速による人口減の社会を考える論点を整理し、その4番目に何十年もの間の政府の少子化対策が、効果を上げていない背景に、社会で、地域で子供を育てるという意識が希薄なのではないかという仮説を挙げました。

❹ 少子化対策に効果がないのはなぜか?〇 婚姻を促す若年層への経済支援が不足
△子供に無関心な社会?(社会で、地域で子供を育てるという意識が希薄=マタハラ、ベビーカーや保育園騒音クレーマー
*合計特殊出生率:1人の女性が生涯に産む子どもの数 〇は事実、△は著者の仮説

この「子育てに不寛容な社会」の象徴として、

  • マタニティハラスメント
  • ベビーカーハラスメント
  • 保育園騒音クレーマーの3つを考えてみましょう。みんな子供が嫌いなの?

マタハラ NPO法人マタハラNet ホームページより

マタハラNetでは2015年1月、過去にマタハラ被害にあった当事者女性を対象に、日本で初めてのマタハラ被害実態調査を実施しました。

※より詳しいデータは、マタハラ調査結果を参照ください。

調査方法:マタハラNetのウェブサイトよりインターネット調査 / 実施期間:2015年1月16日〜26日 / 有効回答数:186件 / 年齢:22歳~72歳までの女性 / 雇用形態別 回答者割合:正社員 約70%・非正規社員 約30%

マタハラの加害者

加害者1位は直属上司、マタハラする同僚は男性より女性のほうが多い

  • 第1位「直属男性上司」、第2位「男性の経営層」「人事」、第3位「直属の女性上司」
    加害者に「人事」が入っており、マタハラを防ぐ役割の人事部門自体が法律順守の意識が低いケースが見られる。
  • マタハラをする同僚は男性より女性が2倍多い。男性9.1%、女性18.3%。
所属事業体の規模

「マタハラは小規模企業で起こること」のイメージは誤り

  • 社員規模別にみると、「10~100人」約32%、「100~500人」約19%、「1000人以上」約13%と大差ない。
マタハラを生む職場環境

休めない、残業当たり前の長時間労働がマタハラを生む

  • 「残業が当たり前で8時間以上の勤務が多い」約38%、「深夜に及ぶ残業が多い働き方」約6%
  • マタハラ被害者の約44%が長時間労働が当たり前の職場に。マタハラの原因の1つと考えられる。
マタハラ言動を受けた後の社内の対応

人事、上司には相談できない。相談するとかえってさらなるマタハラに…

  • そもそも上司・人事に相談しづらい。相談するのはごくわずか
  • 社内の人に相談しなかった理由第1位「相談できるような人柄の人がいなかった」
  • 社内に相談しても「対応されずそのままにされた」が第1位。
  • 「余計に傷付く言葉を言われた」「不利益を強要された」を含めると、かえってさらにマタハラされるケースが大半を占める。

ベビーカーハラスメント  「満員電車にベビーカーで乗るな!」

石原真樹(2019年2月19日付 東京新聞夕刊)

ツイッターに反響2万6000件「私も怒鳴られた」

 「忘れもしない小田急線で。千代田線で」。東京都内で夫の知樹(ともき)さん(31)とデザイン会社を営む平本沙織さん(33)は昨年末、ツイッターにこう書き込んだ。

 ラッシュ時に子連れで電車に乗ることが話題になっていたのを見て、2年前の光景がよみがえった。満員電車にベビーカーで乗ったら、スーツ姿の50代くらいの男性に「この時間にベビーカーで乗るな」と罵声を浴びせられた。

 「思わず『抱っこひもだったら子ども死んでるわ!ベビーカーもゆがむのに。一番大きいので来て正解』って言ってしまった」と書き込むと、1月末までに2万6000件超の反響があった。「私も怒鳴られた」「お母さん頑張れ」。共感や励ましが相次いだ。

(中略)

平本さんは、投稿に「どれだけ自分たちの要求を押しつければ気が済むのか」との批判も寄せられ、母親と子どもに向けられる厳しい目線を感じたという。それでも「泣き寝入りしたくない」と、子どもの安全な移動について問うアンケートをネットで始めた。「私は夫が送迎を代わってくれたけれど、それができないお母さんもいるから」。目指すのは、子どもに優しい社会だ。

「子どもは社会で育てる」認識を進めるために

 「ワンオペ育児」の著書がある明治大の藤田結子専任教授はその理由として、少子化で子どもの声に慣れておらず不快に感じる人が増えていることや、「女は家庭で子育て」という古い価値観があると指摘。「欧州などのように公共空間に子どもがいるのが当たり前にして、『子どもは社会で育てる』という認識が進むことが必要」と話す。

 東京都は19年度、都営大江戸線の一部車両で、ベビーカーを置けるスペースにイラストをあしらい「子育て応援スペース」を設ける方針だ。担当者は「子ども部屋のように装飾して、乗客に『子育て中の人を温かく見守って』とアピールしたい」と話している。


保育園騒音クレーマー

昨年11月から12月にかけて、読売新聞が全国の主要146自治体を対象に行った調査では、保育施設に関して周辺住民から苦情を受けたことがある自治体は109に上り、実に7割以上を占めた。開園中止や延期に至ったケースは16件あった。苦情の内容は、子どもたちの声や運動会やその練習の時の音、太鼓やピアノなどを演奏する音が「うるさい」というものだった。

厚生労働省が行った「人口減少社会に関する意識調査」(2015年10月公表)を見てみよう。住宅地に立地する保育施設について、「子どもの声は騒音」と感じ、近隣住民の苦情や立地反対などの考え方に同感すると答えた人は35.11%にも上った。性別では男性よりも女性が多く、性別・世代別では40~49歳女性の49.8%、30~39歳女性の39.1%が特に目立った。男性では15~29歳の若い世代が38.9%と高く、最も低かったのは60~79歳男性の21.9%だった。(読売新聞オンライン 2017/10/04

総務省開催の座談会「保育所等と騒音問題

私見ですが、保育施設の苦情を申し立てられるのは、旦那さんと奥様のお二人でお住まいになっていて、お宅にお伺いすると、家の中が静かで、外から入ってくる音が気になるようなお宅が多いと感じました。そういった方からの話ですが、自分たちの子供もあそこの幼稚園に通っていたが、当時は騒音なんか気にならなかった。けれども、奥様とお二人だけになってみると容認できなくなってしまった。このような、ちょっと不思議な話を聞いたことがあります。(松島貢●公益社団法人 日本騒音制御工学会事務局長)

ドイツのお話を伺っていると、ヨーロッパの方々は、次世代の社会を支える子供たちを育てているのだというような意識が強いのではないかという印象を持ちました。そこが残念ながら、日本の中ではそういう意識が醸成されていないというようなことも原因の一つではないかという印象を持ちました。こんなに少子化なのだから、何とか子供を大事に育てていかなければならないと思うのですけれど、保育施設が子供にとってよくない環境になっているというのは、非常に矛盾しているなというふうに思うのです。(高田正幸●九州大学大学院芸術工学研究院准教授 音響デザイン学)

あとは、子供の数が少なくなるということは、その地域の活力がなくなるということでもあり、今後肌感覚として感じることが増えてくるのではないかと思います。子供を大切にして、心身ともに健やかな育ちを支えること、また、大綱にも書かせていただいていますけれど、子供一人一人が幸せということはもちろんですし、私たちの未来をつなげていく人たちを育てていくという気持ちを持っていただくことが大事なのかなと思います。そういった思いを、我々も情報発信をしていきますし、社会全体でそういう思いを共有していくということが、これから結婚して家族を持とうと思っている人たちの不安や負担を軽減することにもつながるのではないかなと思っております。(泉聡子●内閣府子ども・子育て本部参事官(少子化対策担当)


ここに挙げた全ての話には、今の日本社会の濁った水の底にヘドロののように溜った「自己中心主義」があります。より正確に言うと、「絆と呼んで自己満足に浸っている、互いにもたれ合うコミュニティ」が、非常に狭い領域に縮小して来ているのですね(これを私は「世界観の狭窄(きょうさく:せばまること)」と呼んでいます)。かつては大家族のようであった日本的経営の企業で、同僚の出産が自分の負荷を高めるというだけで、相手を疎ましく思うようになっている。マタハラもベビーカーも、同性である女性の方が厳しいというのが象徴的です。自分が当事者である間は「絆」によって守られたいが、自分に関係ない世界は自分の損得でしか評価しないのです。

この「自己中心主義」「世界観の狭窄」は、おそらく日本人の不安、あるいは不安が高じた恐怖が原因であるのでしょう。女性の方が不安や恐怖を感じやすいと考えれば、女性がより不寛容なこともうなずけます。いろいろな事情で自分の幸福が脅かされていると感じているので、小さいことでも幸福の毀損に神経質になる。とにかく安全、安定、変わらないこと、リスクが無いことを選ぶ。

「すくむ日本人」が常態化して、もう数十年になります(K)。

        共生社会の実現をめざします!

You Tubeチャンネルに「外国人雇用丸わかり、早わかり」シリーズ動画を掲載しています!

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