統治機構の機能不全(その2)前編

【論点先取り】

❶ 官僚組織は、法令による規制や権限の維持を目的にしてしまい、顧客である国民のニーズに意識が回らない。

❷ 日本の成長モデルの変化や官僚汚職の経験から、政治主導が強くなり、官僚は雑務をこなすばかりで魅力的な仕事で無くなった。官僚組織に無気力と内向き志向がが支配している。

❸ 国から地方への権限移譲が中途半端で、地方自治が未成熟な部分もあり、国と自治体間の相互不信が機能不全をもたらしている。❹ 政治家はその官僚組織の弊害を打破する強い意志がない。

 政治家と官僚という人種は、遅くとも律令国家が成立した時点で、日本に存在していたと思います。当時の中国の法制度・行政組織を短期間に導入できたのも、明治維新後驚くべき速さで富国強兵に成功したのも、政治家と官僚に優れた人材が排出し、両者の関係が上手くいっていたからだと思います。それは決して、高度成長期の日本の成功モデルに限らないのです。

 逆に太平洋戦争に突入し終戦に至る過程では、軍官僚という人種たちが将軍を大臣に押し立てて、組織の利益、組織の論理をごり押ししたことが、日本の失敗の大きな原因だと考えられています。

 押しなべて日本の官僚は歴史的にみて優秀ですし、私利私欲、組織の利害を離れて国家国民に奉仕してきたと思います。しかし前のブログの最後に触れましたが、過去の成功モデルをベースに今の官僚の能力やモラルをあげつらっても、問題は解決しません。また官僚を使いこなせない政治家の能力や志の低さを嘆いても、問題は解決しません。

 そういう前提で、以下の記事を読んでみてください。

危機にすくむ2  崩れゆく官僚のモラル

2021年11月23日 [有料会員限定]

 経済産業省の官僚が同省の制度を悪用して約1500万円を詐取した前代未聞の不祥事。逮捕された若手官僚が取り調べで放ったひと言に、警視庁の担当者は驚いたという。「国が金をばらまく制度。もらえるものはもらっておく」。国の統治を支える官僚のモラルは微塵(みじん)もなかった。

 同省は2019年にも若手が覚醒剤の使用で逮捕された。警察幹部は「経産省は元気のいい人材を元来好むが、官のなり手減少で劣化している」とみる。

 「常に大局的な見地で国家にとってなにが最善かを考えている」。社会学者エズラ・ボーゲル氏が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」で絶賛した戦後日本の官僚はどこへ行ったのか。

 元官僚で情報経営イノベーション専門職大学学長の中村伊知哉氏は「官僚に求められる仕事が小さくなった。大量の資料作りに時間を割かれ、政策立案機能が落ちた」と語る。一方で職場は時代遅れの「ブラック」のまま。厚生労働省で21年1月の残業が過労死ラインの月80時間以上だった職員は398人。雑務に追われ、モチベーションは下がるばかりだ。

 若手はそんな霞が関から離れていく。21年度の国家公務員総合職の採用試験の申込数は前年度比14.5%減の1万4310人で減少率は過去最大。19年度に辞めた20代キャリア官僚は87人で13年度の4倍だ。

 海外は優秀な官僚集めに工夫を凝らす。シンガポールではボーナスが経済成長と連動し、高級幹部の年収は1億円を超す。「民間に遜色ない条件を保証して人材を確保しなければ、小国の国家運営は立ちゆかない」(リー・クアンユー元首相)との考えからだ。

 コロナ禍やエネルギー不足、アジアの安全保障、長引く景気低迷など、日本が直面する不安のタネは増えている。官僚が本来の力を発揮すべき危機的状況なのに、目立つのは無気力や無力感ばかりだ。


 と思えば、財務省の矢野事務次官のように、政治の中枢に向かって弓を引く人もいるのです。

 財務次官のバラマキ批判 「賢明な支出」政策論争の糧に 

2021年10月12日  [有料会員限定] 

 財務省の矢野事務次官が「文芸春秋11月号」に寄稿した「このままでは国家財政は破綻する」が永田町で騒ぎになっている。その大意は「与野党ともに財政バラマキに興じているが、日本人の多くはそれを歓迎するほど愚かではない。放置すればいずれ財政破綻する」

 経済成長だけで財政健全化するのは「夢物語」だと指摘し、衆院選を控えて与野党が展開する「バラマキ合戦」に懸念を示した。与党が検討する現金給付も「死蔵されるだけ」と断じた日本の財政状況について「タイタニック号が氷山に突進しているようなもの」と表現した。

 自身について「一介の役人にすぎない」としながらも、財務省職員として黙っているのは「不作為の罪」だと主張。「心あるモノ言う犬」として注意喚起をしたと説明した。

 2020年度に3度の補正予算を組んで積み上げたコロナ対策費は、いまだに費用対効果の検証さえされていない。金額を大きくすることが優先され、コロナ対策と銘打てば許容される空気が支配した。成長に資する使い方が後回しされたのは政治の責任だ。

 一方で財源論は封印された。東日本大震災の復興予算は、当座は国債を出して工面したが長期の増税でまかなう仕組みをセットで用意した。コロナに際して同じ仕組みをとらなかったのは、増税の話を持ちだすなという政権与党の意向が強かったため

 政治の根幹にかかわる政策のあり方は本来、政官の間で堂々とオープンに議論すべきものだ。問題は安倍・菅政権の9年近くの間に霞が関に「物言えば唇寒し」が定着したことではないか。


 矢野次官の投稿は、高市政務会長をはじめとする当時の自民党総裁選候補らに、激しく批判されました。確かに、「政高官低」の風土が定着し、大部分の官僚の間には「物言えば唇寒し」という空気が支配しているのでしょう。

 しかし私がより問題にしたいのは、政治家のモラル、政治家の能力の方です。

 次の記事にある、自治体の首長の「人気取り政策」は、そのまま中央の政治にも当てはまると思いませんか?(K)

(つづく)

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