統治機構の機能不全(その2)後編

【論点先取り】

❶ 官僚組織は、法令による規制や権限の維持を目的にしてしまい、顧客である国民のニーズに意識が回らない。

❷ 日本の成長モデルの変化や官僚汚職の経験から、政治主導が強くなり、官僚は雑務をこなすばかりで魅力的な仕事で無くなった。官僚組織に無気力と内向き志向がが支配している。

❸ 国から地方への権限移譲が中途半端で、地方自治が未成熟な部分もあり、国と自治体間の相互不信が機能不全をもたらしている。❹ 政治家はその官僚組織の弊害を打破する強い意志がない。

危機にすくむ3 地方自治なき分権の果て 国と相互不信、迷走招く

2021年11月24日 [有料会員限定] 

■未熟な「対等」

 コロナ対策に関わる特別措置法は、飲食店への休業要請などは都道府県知事の役割とする。しかし国が「基本的対処方針を定める」「総合調整を行う」との文言で、知事の裁量を縛っている。

 変異ウイルスが猛威をみせた今春以降、国が自治体の要請なく重点措置を適用したり、要請があっても認めなかったりするケースが相次いだ。全国知事会が「現場の実情を把握している知事の要請」を尊重するよう求めても繰り返された。

 国は自治体の足元もみる。4月、当時の菅義偉首相が高齢者のワクチン接種を7月末に完了する目標を突然打ち出すと、自前の計画が進んでいた自治体が反発。これを電話作戦で抑え込んだのは厚生労働省ではなく地方を所管する総務省だった。実動部隊は地方への補助金などを担う「自治財政局」。いつしか異論は消え、全自治体の目標が7月末完了でそろった。

■人気取りの地方への不信

 国と地方の相互不信は当座をやりすごすだけのいい加減な対応を生む。各地でみられた過剰な発注・在庫は、ワクチンの不足感を強める一因となった。自治なき分権は無責任と結びつく

 「住民負担が増す政策は国の責任にして、プレゼントをばらまきたいだけのサンタクロース首長が増えた」。鳥取県知事や総務相を歴任した片山善博・早大教授は指摘する。

 「お一人に5万円」(愛知県岡崎市)、「全市民に5万円還元!」(兵庫県丹波市)、「全市民に10万円」(香川県丸亀市)。コロナ下の市長選で当選者が掲げた公約だ。いずれも議会の反発で修正・撤回されたが引責辞任の表明はない。

 少子高齢化、人口減少、製造業を中心とした産業の流出など、地方には日本の重い課題が凝縮している。地域の創意工夫で解決策を見いだせなければ、地方ばかりか国の再生もない。国と自治体が信頼感を醸成することが、前向きな解決に向けた第一歩になる。


この「国と自治体の信頼関係」「自治なき分権は無責任と結びつく」という指摘は、そのまま政治と官僚組織の関係に当てはめることができるような気がします。

 今回のコロナのバラマキの最たるものは、なんといっても2020年6月の全国民に対する10万円の定額給付でしょう。13兆円を支出しましたが、ご承知の通り2020年7月~9月の経済成長は年率名目4%のマイナス。それどころか最近出た家計支出調査の結果、2020年度の家計所得は12兆円増加したものの、貯蓄も14兆円増加したのです。定額給付が、右から左に貯蓄に回った計算です。

 この事実を検証もせぬまま、またもや18歳以下に一律10万円を配ることを公約に掲げた公明党は、政権与党の資格を自ら放棄したというべきです。岸田政権も連立のお付き合いで、ほとんど丸のみしたことは、この政権の限界を示しています。

 私は、政治の劣化の象徴がバラマキだと考えます。バラマキとは、本来成長や雇用を生み出す最適な資源配分と、社会の公正さや安心を高めるための適正な所得配分に、財政支出を行うべきところ、そうした理念も考察もなしに「票」を「買う」ために財政支出を行うことです。

 もちろんこうしたバラマキは今に始まったことではありませんし、その時代の経済理論にも左右されてきました。

 しかし、直近でみると、バラマキ政策の敷居が低くなったのは、安倍政権によるアベノミクスが影響していると言わざるを得ません。

 アベノミクスの最大の特徴は、日限の「異次元の金融政策」によって、金利をゼロ以下に固定し、大量のマネタリーベース(現金預金)を市中に吐き出し続ける、超金融緩和政策でした。金利が下がれば、投資や消費が増えるはずでしたが、実はその効果はほとんどなく、国債の利子の償還額が下がり、赤字国債(借金の為の国債)の発行へのブレーキが緩むという副次効果をもたらしました。

 つまり、「借金してどんどん財政支出しても、(経済成長が達成されれば)将来の増税も回避できるだろう」という空気が、政府与党の間に広まったのです。 

 ちなみに超金融緩和政策は直接の効果として円安と株高をもたらしました。これによって大企業は何もしなくても利潤が増えたので、経営者は安心して設備投資に振り向けませんでした。このことが労働生産性の長期停滞をもたらしたと考えられています(*ブログ sDgs_失われた30年その()参照)

 こうしたバラマキ政策容認の空気は、政治のモラルを低下させますね。安倍政権は長期政権でしたし、「忖度」が流行語になったように、官邸の力が強大になりましたから、それもあって記事にあるように官僚の「働き甲斐」を低下させ「無気力感」を蔓延させたのだと思います。(K)

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