病床ひっ迫はなぜ起こったか?(その3)

テーマ3回目は、特集記事から離れて、そもそもの医師不足の原因を深掘りした記事を紹介しましょう。そして、全体のまとめとして病床ひっ迫を防ぐためのコロナ感染病棟の集中化の必要性をとりあげます。

【論点まとめ】

  1. 日本の人口1000人あたりの病床数は13.0床で、OECDで断トツの1位である。しかし・・・
  2. 日本は、医師(特に専門医)と看護師の絶対数が足りないだけでなく、中小病院に分散しているので、ベッド1床あたりの医師・看護師数が、欧米に比して圧倒的に少ない。コロナ感染症は通常より多くのスタッフを必要とするので、病床逼迫が起こった。
  3. 日本が医師の数を増やしてこなかったのは、過当競争を恐れた日本医師会が反対したため。しかも医師の3割はベッドのない診療所の医師であり、2割は70歳を超える。自分の重書化リスクを恐れて、コロナ患者を拒む医師もいる。一方で病院勤務医は過労死レベルの長時間労働が常態化。
  4. 中小病院の統合と、診療所の淘汰、役割の見直しが必要。

医師はどこ? 張り子の病床世界一 コロナで機能不全

2021年5月30日 11:00 [有料会員限定]

医師がいない。看護師も足りない。新型コロナウイルス感染症の治療やワクチン接種で医療人材の不足が毎日のように叫ばれている。先進国である日本が海外に比べて極端に医師らの数が少ないわけではない。それでは、みんなどこにいったのか。探っていくと、人数そのものよりも、人の生かし方に問題があるという真相がみえてきた。

日本の医師数は約32万7000人。人口1000人あたりでは2.5人とドイツ(4.3人)や英国(3.0人)を下回り、経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国の中で27位に甘んじる。

それ以上に深刻なのは1病院あたりの医師の少なさだ。米国(137人)やドイツ(114人)が100人を超えるのに対し、日本はわずか38人にとどまる。決して多くない医師が、海外よりも数が多い病院に散らばっている

いびつなバランスを招いた背景を探ると、問題の根深さが浮かび上がる。日本の人口1000人あたりの病床数は13.0床とOECDで最多だ。G7の中でも2位のドイツ(8.0床)を大きく引き離す。一般に病床数は医療インフラの充実度を示すが、日本の場合は病床が多すぎ、患者に寄り添う現場で医療人材の手薄さが際立つ。米国や英国は医師1人がほぼ1病床を診るが、日本は1人で5つの病床を受け持つ。先進国では異例の「低密度」医療の体制になっており、虚(むな)しさが募る。

医師の専門に着目すると低密度ぶりは一段と深刻だ。人工呼吸器が要る中等症~重症のコロナ患者の治療にあたる呼吸器内科の専門医は7100人余り、感染症専門医にいたっては約1600人しかいない。広く散らばるが故に、感染症専門医がいないか1人だけという民間病院が少なくない。これでは24時間体制で治療にあたる重症者の受け入れはできない。


人手不足は看護師にも当てはまる。人口1000人あたりの看護師数は12人とOECD37カ国中8位だが、1病床あたりでは0.9人と米国(4.1人)や英国(3.1人)を下回る。重篤な患者を診る急性期病床は患者7人に看護師1人の配置が一般的だが、厳格な感染対策が要るコロナでは患者4~5人に看護師1人とより手厚い配置が必要だ。医師がいるのに看護師が不在で、コロナ患者に対応できない事態も起きている。

日本の医師数は戦後に右肩上がりで増えていった。1961年の国民皆保険制度、73年の老人医療費無料化の導入で高まった医療ニーズを賄うために病院も増加した。「自由開業制」のもとで医師の開業志向は強く、開設された診療所の一部が病院に衣替えした。小規模な民間運営の病院によって病床数は増えていった。

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病院で働く勤務医は20万8000人と医師全体の6割強を占める。このうち5万6000人は大学病院などで診療にあたっている。勤務医の長時間労働は過酷だ。コロナ前の2019年に常勤者の残業時間を調べた調査では4割弱が過労死水準とされる年960時間を上回り、1割は年1860時間を超える。医師の3割にあたる10万4000人はクリニックなどの診療所で働く。入院機能がないところが大半だ。診療所で働く7割は施設を開設したり代表を継いだりした開業医。平均年齢は60歳と病院勤務医(44.8歳)と比べて高齢だ。70歳以上が2割を占める。高齢で感染時の重症化リスクが高いことを理由にコロナ患者への対応を拒む医師もいる。

80年代になると、政府は欧米諸国を追いかけて量よりも質を重視した成熟型医療への転換を目指すようになったが、この改革が中途半端に進んだことが医師らの逼迫を招く元凶となった。

97年に医師から患者への十分な説明を求めるインフォームド・コンセントが法制化された。2006年には患者7人あたりの看護師の数を1人以上確保する病院に診療報酬を増額する改正があった。質の高い専門医を育成する環境整備も進めた。患者への丁寧な説明などで医療の質を高めると医師や看護師の仕事量は増える。本来は、増えすぎた病院を集約して施設あたりの人数を増やす改革を同時に進める必要があった

だが病院を存続させたい開業医や、身近な病院がなくなることへの住民の警戒が強く、病床再編の動きは鈍かった。むしろ90年ごろまで病床は増え続けた。厚生労働省は19年9月にようやく手術など実績の乏しい400以上の公立・公的病院の実名を挙げて再編を迫ったが、手をつけようとした矢先にコロナに襲われた。

いま医師や看護師が「足りない」のは、低密度体制を放置してきた当然の帰結だ。産科医不足で妊婦のたらい回しが頻発したり、手術に追われて残業時間が年2000時間を超える外科医がいたりと、医療が危険水域にあるサインは2000年代半ばには出ていたのに抜本的なメスが入らなかった。

日本の医師不足は医療ニーズが大きい高齢者の増加が原因ではない。構造問題に切り込まない限り、コロナが収束しても「医師が足りない」と嘆く現状は変わらない。

開業医、問われる役割

80年代前半に8280人だった医学部定員はその後縮小され、90年代以降は7600人程度に据え置かれた。医師が増えると医療機関の開業も増え、既存の診療所や病院に患者が集まらなくなる。こう懸念した日本医師会が医師を増やすことに反対したためだ。小規模な民間病院の再編・統合を促す政策も打ち出せず、病院勤務医の業務が増えるにつれて日本の医療は機動力を失っていった。

医師会が守ってきた診療所には、内科でも今なお発熱患者を拒むところが少なくない。コロナとの闘いの「外側」にいる医師がかなりいる。ワクチン接種には多くの診療所が手を挙げたが、接種対象者を日ごろの患者に限っている例が多い。通常の診察を大きく減らし、地域の高齢者に幅広く接種するという開業医は少数だ。

発熱や体調不良の患者が最初に相談する窓口は本来、住民に身近な診療所であるべきだ。日本ではその役割を保健所が引き受け、そして業務逼迫でパンクした。コロナ禍は診療所の存在意義も問いかけている。


オミクロン株の感染拡大は、必然的に自宅療養者の数を急激に増大させ、そのケアのための診療所の役割に改めてスポットライトを当てる結果になりました。よく「かかりつけ医」と言われますが、持病の無い人間にとってみれば、「かかりつけ医」など存在しません。健康保険番号=マイナンバーと紐付けて、近隣の医院の医師を「総合診療医」として、予め登録しておき、オンライン診察を原則にする体制を徐々に作り上げていくほかはありません。

医療業界は、改革の効かない「岩盤」の最たるものですから、コロナ禍のような「黒船」でも、余り変化していないようですね。(K)

        共生社会の実現をめざします!

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