病床ひっ迫はなぜ起こったか?(その2)

前回は、日本は民間病院が多く、病床稼働率の低下が経営を圧迫するため、コロナ患者の受け入れに消極的だったという話でした。今回は、その結果、病院間の連携が上手くいかず病床逼迫につながったという分析です。

【論点まとめ】

  1. 中等症以上と以下の患者の、病院間の連携(転院)がうまくいかず(原因は受け入れに消極的)、あらゆるところで目詰まりが起こり、結果として病床が逼迫した。

〇コロナが問う医療提供の課題(5) 患者の転院阻む連携不足

2021年5月13日

病床があるにもかかわらず逼迫してしまう理由としては、「医師数はそれほど多くない」「医療機関の連携が不足している」といった指摘があります。このうち「連携不足」は、「上り」と「下り」に分けて考えることが有用です。

「上り」の連携とは、軽症や中等症の患者が重症化した際に、体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)などを保有する高機能病院にスムーズに搬送できるかどうかということです。新型コロナは急激に重症化することがありますが、この「上り」の連携が困難になるケースが相次ぎました。

当初は中等症患者として入院したとしても、数日後に急激に重症化した場合に、即座に重症患者を受け入れる医療機関を探すことが難しかったのです。特に、人工透析を受けていたり、認知症の症状があったりする患者が重症化した場合には、適切な病床の確保が困難だといわれます。

「下り」の連携は「上り」とは逆で、軽快した患者をスムーズに急性期病床から転換するための連携です。軽快した患者をすぐに回復期の病床に転院させることができれば、重症及び中等症の患者の病床は逼迫しないはずです。しかし、現実にはこうした「下り」の連携がうまくいかないケースが報告されています。

病院あたりのコロナ病床が少ないなかで、軽快した患者を他の病院に受け入れてもらうことが難しく、院内の転棟で重症者用の病床を確保する病院が多かったのです。介護施設から入院してきた患者の場合には、元の施設に返すことが困難で、結果的に病床に留まるケースもありました。

コロナが問う医療提供の課題(6) 全国一律の対応に限界

2021年5月14日

病床の逼迫は「上り」と「下り」それぞれでの連携不足で発生します。中等症の患者を受け入れる病院で患者が重症化した場合、重症患者を受け入れてくれる病院が見つからなければ患者の治療は困難になってしまいます。その結果として、当該の病院では積極的に中等症の患者を受け入れることが困難になります。

「下り」の連携については、軽快した患者が行き場を失って高機能病院に留まりつづければ、新規の重症患者を受け入れることができなくなります。

そうなれば「上り」の連携もできなくなってしまうでしょう。こうした結果として、多くの地域で病床の逼迫が起こってしまったのです。

受け入れに際して、多くの一般患者の診療をキャンセルせざるを得なくなれば、診療報酬の面からも連携は進みません。そうした地域ではコロナ患者の受け入れが難しくなってしまうのです。

地域での連携を促すために、コロナ診療関係の診療報酬を一律に引き上げた場合、全体としてみれば過剰な補塡がなされることになります。地域性の高い医療問題に対処するため、全国一律の診療報酬で誘導しようとしても、うまくいかない事例はたびたび報告されています。感染症の拡大はまさに地域性が極めて高い問題である点が認識されるべきでしょう。

以上のようなメカニズムで生じる病床の逼迫に対して、医師会などは医療機関の連携の必要性を繰り返し主張しています。しかし、日本ではコロナ患者の受け入れ態勢は過度に分散されています。こうした連携の必要性に関する議論と同時に、新型コロナ患者を受け入れる病院を整理する必要もあると考えられます。

コロナが問う医療提供の課題(7) 逼迫解消、「選択と集中」が軸

2021年5月17日 2:00 [有料会員限定]

分散型の受け入れ態勢をとった日本と対極にあるのが英国でしょう。既に触れたように、英国では病床数の半数程度の新型コロナ患者を受け入れた大規模病院もあり、患者はいくつかの病院に集中しています。

医療機関の連携はもちろん重要です。しかし、1つの病院に数十台のエクモが整備され、その病院に数百人のコロナ患者を集中させることができれば、「医療機関の連携」ではなく、その病院の判断で患者の重症度に合わせた治療が可能になります。治療中の患者が重症化した場合でも、その病院内で治療することができ、「医療機関の連携」は必ずしも必要にはならないと思われます。

そうした方向性とは逆に、例えば大阪府では一定の規模を持つ病院に、コロナ対応のため1床ないし2床の病床確保を呼びかけました。他の都道府県でも同じように多くの病院に要請がなされました。

医療の逼迫解決の正解は、医療機関の連携だけではありません。連携が必要であり重要だと指摘する議論では、コロナ患者の受け入れが数多くの医療機関に分散しているという現状が「前提」とされているようです。連携と同時に、患者受け入れの「選択と集中」も、もう一つの軸として考える必要があります。仮に患者を少数の高機能病院に集中させることができれば、その他の病院は通常医療の継続に注力できます。コロナ禍で観察された大規模な通常医療の中止・延期と、それによる医療機関の経営難という事態は緩和されたはずです。


記事の筆者は、盛んに「患者を少数の高機能病院に集中させること」を訴えていますが、それが何故できないかを知りたいところですね。大学病院や民間病院相互の統合は困難だとしても、公立病院たとえば東京の都立病院(8箇所)の内23区内で1箇所、三多摩で1箇所をコロナ専門病院とすることが、何故できないのでしょうか。そのあたりを探った記事を読んでみたいものです。(K)

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