病床ひっ迫はなぜ起こったか?(その1)

「コロナ敗戦」という形容は当たっていないでしょう。アメリカ大陸、EU等に比べて死者の数は桁違いに少ないからです。しかしコロナが日本の医療保険制度の問題をあぶり出したのは事実です。日本人の誰もが知りたいと思うことは、少なくとも3つはあると思います。

❶ 医者の数もベッド数も世界トップクラスなのに、病床が逼迫したのは何故か?

❷ 政府は感染予防を緊急事態宣言という「お願いベース」でやり続けたのは何故か?

❸ ノーベル医学生理学賞を排出した日本が、何故ワクチンを作れないのか?

さらに私が個人的に付け加えるならば、何故メディアはこれらの原因を探ろうともせずに、危機ばかり煽り、政府批判ばかりを続けたのか?

とはいえ、NIKKEIは構造的要因を探ろうとしていました。以下、❶の論点についてNIKKEIの2021年5月に9回にわたって連載された特集記事から抜粋してまとめます。


病床ひっ迫は何故起こったか(その1)

【論点まとめ】

  • 日本は民間医療が多く、人手のかかるコロナ患者を受けれる数が少なくなった。

コロナが問う医療提供の課題(1) 日本の特殊性、病床逼迫招く 

2021年5月7日 2:00 [有料会員限定]

議論の前提は日本の医療提供体制の特殊性です。日本では歴史的に開業医が病床を持つことで病院が形成されてきました。その結果、中小零細病院が都市部を中心に乱立し、都市部で流行するコロナのような感染症に対しては極めて脆弱なものとなっています。

例えば、東京では国公立の病院が保有する病床は15%にすぎません。病院の経営難が社会問題となっているのは、公的病院が少ない日本や米国で、公的病院が主な欧州ではそれほどではないようです。

公的に病院が運営されていれば、採算が合わなくとも税財源での補塡が可能であり、医療者の待遇は少なくとも平時と同等に保たれるでしょう。しかし、民間病院の場合にはそうした補塡が難しく、「医療経営崩壊」と呼ばれるような事態に陥ります。こうした病院の所有権の構造は、コロナ禍の医療提供問題を理解するカギとなります。

たかく・れお 慶応義塾大学博士(商学)。専門は医療経済学、社会保障。

コロナが問う医療提供の課題(2) 患者受け入れが病院収益に影響 

2021年5月10日 2:00 [有料会員限定]

2020年3月の新型コロナウイルス感染第1波では、感染者の治療を優先するため多くの不急の手術や治療が延期されました。

同年5月の入院医療費(速報)は前年同月比でマイナス10.1%、入院外では同マイナス15.4%を記録しました。診療報酬の抑制政策により病院の利益率がおおむね2~3%で推移する中で、このような記録的な医療費の低下は病院の経営を直撃しました。

病院にとってコロナ患者の受け入れは、ゾーニングのために多くの既存患者の治療を放棄することにつながり、経営上の痛手となります。こうした経営上の懸念が、病床の確保を難しくしてしまったようです。

コロナ患者を受け入れるパターンはいくつかありますが、稼働していなかった空き病棟をコロナ専用病棟化する場合には、それほど経営上の損失は発生しません。個室をコロナ患者のために空ける場合も、経営上の損失はその個室を使っていたであろう患者分だけで済むでしょう。

しかし、実際には医療従事者を「コロナ専用病室担当」と「コロナ以外の患者の病室担当」に分けることは非常に難しいのです。医療者の動線を分けることを重視すれば、結果として一般患者の受け入れ断念につながります。経営上の損失を伴いながら、コロナ患者を受け入れたわけです。

コロナ患者の対応には多くの人員が必要となることも病床の稼働率低下の要因です。コロナ専用病棟では患者と看護スタッフの比率は3対1ないし4対1です。通常医療であればその比率は一般的に7対1なので、通常医療と比べ2倍程度の看護スタッフが必要になります。コロナ患者を受け入れるためには、コロナ患者の倍の患者の医療をキャンセルする必要が生じるわけで、経営悪化が進むことになります。

コロナが問う医療提供の課題(3) 患者集約が危機回避の道 

2021年5月11日

新型コロナ患者の受け入れが病院経営に直結する一方で、わが国では多くの病院に病床の提供が要請されています。しかし、病院あたりのコロナ病床数は非常に少なく、最も患者を受け入れている病院の1つ、東京医科歯科大学病院(753床)でも約50床(21年4月時点)です。

国際的に見ると、こうした受け入れ態勢はやや特異に思われます。例えば、英国では感染の拡大時期(21年1月)に、10の「NHSトラスト(病院群)」で合計5000人程度の入院患者がいました。一方、東京の重点医療機関数は21年2月24日時点で114。合計4108床が確保されています。東京の医療提供態勢が英国と同等であれば、114ではなく10以下の病院群で対応可能だったということです。

これはコロナの治療に伴い、通常医療が大きな影響を受けたことを考えると重要なポイントです。第1波では感染者の拡大傾向が見通せず、通常医療の延期は既定路線とされましたが、患者を集約すれば全体として通常医療との両立は十分可能だったはずです。

コロナ患者を集約化すれば、多くの病院が経営上の危機を回避できたでしょう。

欧州各国は平時においても公的病院の役割が大きいのに対し、日本では歴史的に民間の開業医が病床を持つことで病院群が形成されてきました。単純な「是非」の比較はできませんが、日本の病床確保政策は極めて「分権的」だったと考えてよいでしょう。


この記事は、日本の病院のほとんどが経営の損益分岐点を考えなければならない民間病院で、しかも中小病院が分散して存在しているという事実が、医療ひっ迫の原因の一つだと指摘しています。コロナ患者を少数の病院に集約すべきだというのが、第1派の教訓だったわけですが、それは結局第6波が到来した2022年になっても実現どころか、議論さえされた形跡がありません。これも民間病院が多いという現実の壁でしょう。(K)

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