民主主義のロジック(論理)(その1)

民主主義の民主主義たるゆえんは、国の政策決定に国民(有権者)の意思が反映されることです。それは選挙という制度を通して反映されるわけですが、前回のブログでは、政権が国民にお金(予算)をばらまいて、事実上「票を買う」民主主義に堕ちていることを指摘しました。

しかし「票を買う」までに至らないまでも、与党も野党も選挙のたびに「絵に描いた餅」あるいは「批判のための批判」を掲げて票を取ろうとします。売上を伸ばし利益を出さなければ存続できない企業ではありえないことです。経営方針という「政策のロジック」を示して支持を得られなければならば、経営者は株主によって放逐されるからです。

民主主義にも、この「政策のロジック」といえる仕組みがなくてはなりません。

その概念を次の図で示しました。

  • 政策におけるトレードオフを明示する
  • 政策の数値化された目標を提示する
  • 目標が達成されたかどうか、費用対効果があったかどうかを示すデータを公開する
  • そのデータに基づいた検証が行われる
  • 検証結果を政策にフィードバックする
  • これらの全プロセスについて、政治家、官僚、企業、労働団体、有権者などの「ステークホルダー」(利害関係者)が議論をし、最終的に投票によって政策決定する

どういうことなのか、「コロナ禍対策」を具体例に、一つ一つ考えてみましょう

政策のトレードオフを明示する

限られた資源を使って、すべての人が満足する政策を立てることは不可能です。政策には、必ず、「こちらを立てれば、あちらが立たない」というトレードオフの関係が生まれます。「コロナ禍」の場合は、「感染の抑制」と「経済活動の維持」がこの関係にありました。

コロナ発生から3年目を迎えて、政府も国民もようやくこのトレードオフの関係を意識するようになりましたが、2年目の第5波の頃までは、とにかく感染抑制の一点張りでした。感染拡大による真のリスク(例えば、他の疾病の何倍にもあたる死亡者が想定される)が何であるのか、感染を抑制するための社会活動の制限に伴う真のリスク(例えば、失業、廃業、困窮家庭の増加、子供の教育機会の喪失による広義の学力の低下)が何であるのか、そのトレードオフを明示して国民的な議論を行うという姿勢が、政府には全くありませんでした。そこにメディアの責任も深く関わっていますが、これについては後日取り上げます。

数値化された目標の提示

このトレードオフの関係の中で、どの位置を選択すべきか。それが政策の目標になりますが、そのためには真のリスクが数値化されていることが必要です。病床の逼迫とか医療体制の崩壊ということが盛んに言われましたが、別のブログで指摘したように、病床はいっぱい余っているのに、運用で目詰まりしているとか、稼働出来る医師や看護師が公立病院に集中し、医師の3割を占める診療所はコロナ診療にほとんど加わらなかったというような、現実の姿が数値で表現されることはありませんでした

データを公開

政府・政権が国民に現実の姿を見せたくない、できれば隠しておきたいと思うのは、よくあることです。しかし、例に上げたようなデータが政府のデータベースで公開されていて、意思と能力ある専門家やメディアが真のリスクを数値化して議論できれば、「政策のロジック」は維持されます。

政府は2012年に「電子行政オープンデータ戦略」を掲げてデータの公開を進めていますが、実用には不備が多いということが、最近わかってきました。これは次回のブログ(その2)で取り上げます。

データに基づいた費用対効果の検証

本来、政策を実行する政府すなわち各省庁が、個々の政策の数値目標、その達成目標年度、その時点での実績を明らかにして、その評価と対策を発表しなければなりません。それに対して、国民は次の選挙で票を按分するのですから。しかし、日本の政治家と官僚にはこの習慣が根付いていません。民主党政権の「マニュフェスト」も数値化されていない目標がほとんどでしたし、もはや選挙公約の世界でも死語となっています。「ばらまき」は言うまでもなく、莫大な予算が各省庁に割り振られ、毎年何百というプロジェクトが立ち上がりますが、「データに基づいた費用対効果」が検証される場面はほとんどないのが実情です。「コロナ禍」でばらまかれた13兆の費用対効果が検証されていないことは、前のブログで指摘しました。

検証結果を政策にフィードバック

左の票は、岸田内閣が発足直後の21年10月に出したコロナ対策の新指針です。第5派で明らかになった課題に対して、それをフィードバックして新しい政策の「指針」を作ったということになっています。

しかし、22年4月1日現在、4番目の「経口薬」(新型コロナ治療薬)の実用化以外、きちっと実現されたものはありません。

政府は頻繁に「目標」「方針」「指針」「指示」を出しますが、実現に実効性のある具体的手段を明記することは少なく、「努力(義務)」「要請(お願い)」ベースにとどまっている場合が多いです。それは日本社会全体とりわけ医療界を覆っている、「既得権」「前例主義」「事なかれ主義」の分厚い霧のせいです。

10月の「指針」については、連載ブログの(その3)で取り上げようと思っています。

プロセスへのステークホルダの関与

以上の、政策トレードオフの明示、数値化された目標の提示、データの公開、データに基づいた費用対効果の検証、検証結果を政策にフィードバックする一連のプロセスを、私は「政策ロジック」と呼ぶことにします。これが民主主義を機能させる最低条件(必要条件)だと私は考えますが、さらに重要なことは、この一連のプロセスに、民主主義の「ステークホルダー」(利害関係者)である、政治家、官僚、企業、労働団体、有権者などが参加し、活発に議論をし、最終的には選挙における投票によって政策に収束させるということです。

官僚や専門家はともかく、一般の国民は複雑な制度や既得権、それに政治のメカニズムについて十分な知識を持っていません。またふだんからそのような問題を、自分の問題として真剣に考える習慣がありません。考えないから政府にまかせてしまう。無意識に政府は間違えないと思ってしまう。だから首相が言っていることが実現できないと、首相を批判する。と、こうなります。批判されるので政治家はあいまいなことしか言わない。トレードオフを示さない、実現可能な数値目標を示さない。こうした悪循環に陥るのです。

こここそ、民主主義の、まさに「民度」が問われている場面だと、私は思います。(K)

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民主主義のロジック(論理)(その1)”へ2件のコメント

  1. ハチドリ より:

    政府サイドによる政策ロジックの確立が急務ではありますが、根本的にそれを支えているのは市井の市民であり、それはつまりこの記事を読む私であり他の読者の皆さんということですね。筆者さんは、私が何となく分かったように思っている事を、ハッキリと指摘した上で道を示してくれます。続きのアップを楽しみにしてます!

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