票を買う日本の民主主義(その1)

コロナ禍での事業者や困窮家庭への支援を名目に、この数年間で日本の政治家たち(そして国民)は、給付金という名前のバラマキの麻薬常習者になったようです。まさに「票を買う民主主義」に堕落したといって良いでしょう。

ことの始まりは2020年の国民一人あたり10万円の一律給付でした。既に財務省などの統計から、13兆円がほぼ家計の貯蓄に回っただけであったことは、明らかになっていますが、政権側も、野党側も、国民の間からも、この政策の目的と効果について検証しようという議論が起こりませんでした。その結果、去年の18歳以下の子供一律給付や、今年の年金受給者への一律給付という、バラマキが再び行われようとしています。

2020年のバラマキに関して、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんが、ダイヤモンド・オンラインに分析記事を書いているので、それを要約したいと思います(その1)。(その2)では、年金受給者への一律給付は年金制度改革を逆もどりさせるものだという、日経の批判記事を取り上げます。

【このブログの骨子】

  • 2020年の家計調査を前年と比べると、勤労者世帯の貯蓄額は、31万円増加している。
  • 勤労者世帯の収入は増えている。収入が減ったので消費を切り詰めた結果、貯蓄が増えたのではない。つまり10万円の給付金は、全て貯蓄に回り、消費刺激効果は無かった。その意味で13兆円は不必要な財政支出だった。
  • 10万円の一律給付を決定した2020年4月20日時点で、統計調査から勤労者世帯の収入はほとんど影響を受けていないことが分かっていたにも関わらず、困窮世帯ではなく全世帯に給付を行った。その理由は未だ説明されていない。
  • 自公連立政権はコロナの衆院選への悪影響をおそれて、明らかに「票を買った」。懐の温まる国民もマスコミも全く批判しなかった。これが日本の民主主義の現状である。

[コロナ「10万円給付」は史上空前のバラマキ政策だった   野口悠紀雄

ダイヤモンド・オンライン 2021.2.18 会員限定

 家計調査を改めて検証してみると、2020年の勤労者世帯(2人以上の世帯)の収支は、勤労者世帯の実収入は年額731.4万円になった(前年比名目4.0%の増、月額61.0万円)。他方で、勤労者世帯の消費支出(名目)は年間367.0万円となった(前年比5.6%減、月額30.6万円)。その結果、貯蓄純増が年間210.6万円となり、19年の年間179.6万円に比べて31.0万円の増加となったこれは特別定額給付金による特別収入の増加分26.2万円よりも多い。

収入が増えたにもかかわらず、それは貯蓄を増加させるだけの結果になったのだ。 こうなったのは、言うまでもなく新型コロナウイルス対策で国民1人10万円の特別定額給付が行なわれた影響だ。給付金はほぼ全額、貯蓄されたと考えてよい。

上記のような結果になったのは給付金以外の収入がほとんど減らなかったからだ。給与も賞与も若干は下がったのだが、大きな落ち込みではなかった。収入が減っていないところに給付金が与えられたのだから、これは過剰なものだったと言わざるを得ない12.7兆円という史上空前の財政支出は不必要なものだったのだ。

二極化した消費支出飲食や旅行、娯楽は大きく減少

 実収入が大きく減らなかったので、基礎的な消費支出はこれまでどおりの水準を維持した。

 例えば、食料品は1.6%の増となった(2人以上の勤労者世帯。以下同様)。住居の設備材料(11.9%)、家事用耐久財(9.4%)、冷暖房用器具(6.7%)、一般家具(16.5%)。よく「特別給付金でエアコンやテレビを買い換えた」ということが言われるが、統計の数字でもそのことが確かめられるわけだ。ただし、これらはコロナによって被害を受けている部門ではない。 他方でつぎのような費目は大きく落ち込んだ。

 一般外食(-25.4%)、被服及び履物(-18.4%)、交通(-48.0)、教育(-10.5%)、教養娯楽サービス(-30.9%)、うち宿泊料(-51.8%)、うちパック旅行費(-71.8%)、うち月謝額(-21.8%)、うち他の教養娯楽サービス(-13.3%)、交際費(-22.5%)。

 では、給付金がなかったとしたら消費の落ち込みはもっと大きくなっていただろうか?

 そう考えることは難しい。消費全体が落ち込んだのは、上記の特定の分野の消費が大きく落ち込んだためだ。これらは外出や営業自粛を求められた結果として生じたことだ。収入が減少したために節約が必要となり、必要な消費を切り詰めたということではない。だから、仮に給付金がなかったとしても、消費が実際に生じたよりも大きく落ち込んだとは考えにくい。

「一律給付」に変更された理由は何だったのか?

 当初、給付金は所得が減少した世帯に限るとされていた。これはリーマンショックの際の一律給付がバラマキだったという批判に対応したものだった。 そして、その方針に基づいて給付対象を限定した補正予算が組まれた。ところが公明党が一律給付を主張したため、明確な理由なしに予算の見直しが行なわれるという異常事態になった。

 一律給付を閣議決定したのは2020年4月20日のことだ。しかしこのとき、2月分の家計調査はすでに公表されていた(4月7日に公開)。それによれば、宿泊費、教育娯楽費、交通費などが著しく低下している一方で、勤労者世帯の収入はほとんど影響を受けていないことが分かっていた。つまり、コロナによって被害を受けているのは経済の一部であり、全世帯を対象とする給付を行なう必要はないことが分かっていたのだ。

それにもかかわらず、当初は限定的だった給付金が一律給付金に変わった。なぜこうした変更が必要だったのか。それに関して納得できる説明はいまになっても政府から行なわれていない。 一律給付にしたのは、給付を急ぐ必要があったからだともいわれる。しかし、勤労者世帯の収入の状況から見て、急ぐ必要はなかったことも4月20日当時すでに分かっていたはずだ(実際には、オンライン申請ができなかったことなどから給付は迅速には行なえなかった)。


13兆円という予算規模は、飲食や宿泊など、人流抑制の影響をもろに受けた事業主や雇い止めにあった世帯、200万件に対して、650万円づつの支給ができる額です。また270万軒の個店の家賃月額40万円を、1年間肩代わりできる額でもあります。1億2000万人にばらまくのではなく、本当に支援を必要としている人々に支給していたならば、倒産や廃業の件数や自殺者数を減らすことができたかもしれません。また事業転換や再就職のための融資やリスキリングの補助金として使えたでしょう。

自公連立政権の中枢は、来る衆議院選挙へのコロナの悪影響を恐れるがあまり、「票を金で買った」と言わざるを得ません。

一方の国民も、自分の懐が暖かくなるが故に、誰も文句はいいませんでした。口汚く政府のコロナ対策を罵ってきたマスコミも、これについては全く批判しませんでした。

これが、2020年代日本の民主主義の実態です。ちなみに私は給付金10万円が口座に入金されたその日に、難民支援をしているNPOに全額寄付しました。あなたは、どういう思いで受け取ったのでしょう?(K)

        共生社会の実現をめざします!

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票を買う日本の民主主義(その1)”へ4件のコメント

  1. ハチドリ より:

    市井の一市民として、受け取った給付金をつい貯蓄に回してしまう大多数の方の気持ちもよく分かります。であればこそなのですが、給付金全額寄付されたという筆者さんには敬服しました。他の記事も読みましたが、常識的に非常に正しい意見を主張されていると思いますので、非常に勉強になります。これからも是非書き続けて下さい。応援してます!

    1. 50invain より:

      ハチドリ様。私は政府の愚策に余りに腹が立ったので、全額寄付しましたが、そうでなかったら、規制に従っていない飲食店に行って、パーッと使います(笑)。どっちにせよ貯蓄はないですねえ。

      1. ハチドリ より:

        私も経済的に貯蓄にまわす必要はなかったので、パートナーにラップトップPCを買ってあげました。経済を少しでも回すために、期間限定の金券チケット制が良かったのかもしれないと、個人的には思いました。そもそもやるべきではなかったのは間違いないですが。

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