民主主義VS権威主義(その3)経済の優劣

ロシアのウクライナ侵略によって、国際社会は民主主義陣営と中国、ロシアなどの権威主義国家(あるいは専制国家)陣営とで、二分された対立の構図がはっきりしてきました。(その1)の冒頭で、両者の優劣を示す表を書きましたが、今回は、そのうちの経済面特に経済成長の潜在能力について比較した記事をもとに考えてみることにします。

【このブログの骨子】

  • かつての中国、韓国、台湾、マレーシアなどで、「開発独裁」と呼ばれた政治体制が高成長を実現したが、その後の研究で経済成長には民主主義体制の方が有利であるという事実が明らかになりつつある。
  • 経済の構造改革や教育の浸透、政治的争乱の減少などを通じて、民主化が経済成長を促す効果があると考えられる。
  • 専制主義体制では、(相反する民意を調整するように政策が行われるというメカニズムが働かないので)経済の変動が激しく、劇的な経済収縮が起きるリスクが大きい。
  • 特に、独裁者は高齢になるほど(政権の末期に近づくほど)国民経済を犠牲にして、私利私欲を図る傾向がある。
  • それにも関わらず、おの10年で権威主義的体制は4割も増えた。

「独裁は高成長」の虚実 民主主義の優位、実証相次ぐ

2022年3月20日 2:00 [有料会員限定]

ロシアによるウクライナ侵攻で、民主主義世界と独裁・専制体制世界の分断がますます深まった。この先、中期的に両陣営の住民の暮らし向きはどうなるのだろうか。最近の実証研究では、政治や言論・表現の自由だけでなく経済の面でも、民主主義体制の方に分があるという結論が出ている。

それから30年たっても、アジア型開発独裁の典型とされたマレーシアはいわゆる「中所得のワナ」から抜け出せていない。タイは一時期民主化が進んだかにみえたが2014年のクーデターで専制的な体制に逆戻りし、やはり中所得のワナにはまったままだ。中南米やアフリカの独裁政権は基本的に経済運営に失敗してきた。結局のところ「開発独裁」や「アジア的価値観」に基づく体制は、そもそも経済運営上有利な政治体制なのか疑問が高まる。

民主化が経済成長を促す因果関係

2019年に米マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授らが発表した論文のタイトルはずばり「民主主義は経済成長を起こす」(Democracy Does Cause Growth)だ。1960年から2010年までの50年間にわたる延べ175カ国・地域の政治体制と1人当たり国内総生産(GDP)の推移を比較検証した。その結果、権威主義的体制から民主主義に移行した経済と、権威主義体制のままだった経済を比べると、民主化した方が1人当たりGDPが平均して25年後に20%多くなっていることが分かった。具体的な政策の実績まで勘案すると、経済構造改革や教育の浸透、政治的争乱の減少などを通じて民主化が経済成長を促す因果関係があることも証明できたと結論づけた。

専制主義体制の経済は不安定

ノルウェー・オスロ大学教授のカール・ヘンリク・クヌトセン氏が21年に発表した論文は、専制から民主主義へ転換したかどうかではなく、専制と民主主義が続くそれぞれの体制のなかでの1人当たりGDPの趨勢を比較検証した(A business case for democracy: regime type, growth, and growth volatility)。

19世紀から21世紀まで200年以上の160カ国・地域以上のデータを検証。結果は、色々な時代の10年間ごとの平均成長率を比較すると、世界大戦や大恐慌のあった1900年代から30年代までを除いて、あらゆる時代で民主主義経済の方が統計的に有意に1人当たりGDPの伸び率が高かった

さらに、より統計的な有意性が高かったのが、専制主義体制の経済の方が民主主義よりも成長率の変化が大きく、不安定である点だった。民主主義政治は民意を反映するため、景気が悪くなり人々の生活が苦しくなったときに景気浮揚策を講じる確率が高く、結果的に政治体制が経済成長の安全装置の役割を果たしていることが分かった。「中国の毛沢東の大躍進政策や旧ザイール(現・コンゴ民主共和国)のモブツ・セセ・セコによる国家資源の全面私物化のような惨事は民主主義では起こらない」と、独裁体制の方が劇的な経済収縮が起きるリスクが大きい例をクヌトセン氏は挙げる。

独裁者が高年齢ほど成長率低く

オランダ・グローニンゲン大助教授、リチャード・ヨンアピン氏らが発表した論文は、同じ独裁体制でも、独裁者の年齢によって経済パフォーマンスに違いがあることを統計的に明らかにした(No country for old men: Aging dictators and economic growth)。1950年から2019年までに政権を握ったことのある約400人の独裁者を比較したところ、高年齢になるほどその国の経済成長率が低くなる傾向が出た。

「独裁者は治世の先が短いと認識するほど国の将来を見据えた生産性向上に資する投資をしなくなり、私利私欲のための搾取を増やす」と著者らは分析する。まさしく近年ロシアで起きている現象は、先が長くない独裁者が個人的な野望やそれを支える少数の有力者の富を肥やすために国民経済を犠牲にする極端な典型例だ。

民主主義の後退に歯止めかからず

スウェーデン・イエーテボリ大学のV-Dem(多様な民主主義)研究所が22年3月に発表した「2022年民主主義報告書」(Democracy Report 2022)によると、12年以来世界中で民主主義の後退現象が進んでおり、21年末現在、世界人口の7割に当たる約54億人が専制主義体制下で暮らしているという。11年には世界人口の半分未満だった。

21年にはミャンマーやマリなど6カ国で軍事クーデターがあり、香港、トルコ、ハンガリーで弾圧が進んだ。さらにウクライナ侵攻後、ロシアの言論弾圧と全体主義化は想像をはるかに超えるペースで進んでいる。これらの国・地域の専制化が人々の暮らしに及ぼす経済的実害は、これからますます深刻化する恐れがある。


50年から100年という歴史的な時間でみると、上の研究結果は妥当なような気がします。しかし、短期的にみるとどうでしょうか。世界のあちらこちらでデモクラシーが挫折しているばかりか、総本山であるべきアメリカ自体の価値観が分裂し、議論すらできない状態に陥っています。中国はやがてGDPでアメリカを抜こうとしており、習近平氏が「21世紀は民主主義が敗北する」とうそぶく気持ちも分からないではありません。

やはりデモクラシーの命運を握るのは、社会としての多様性(Diversity)への寛容さと、情報へのアクセスの自由度、そして情報を判断する国民のリテラシーであると私は思います。(K)

        共生社会の実現をめざします!

You Tubeチャンネルに「外国人雇用丸わかり、早わかり」シリーズ動画を掲載しています!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です