票を買う日本の民主主義(その2)

(その2)では、年金受給者への一律給付は年金制度改革を逆もどりさせるものだという、日経の批判記事を取り上げます。と書きましたが、どうやら政府自民党は白紙撤回したようですね。とはいえ、何故、年金生活者の票を5,000円で買うことが、民主主義の頽廃にとどまらず、年金制度にとっても害悪なのか、日経の記事で見てみましょう。

【このブログの骨子】

  • 年金生活者への5,000円給付案は、現役世代の賃金低下に合わせて給付額が下がる分を、参院選前に帳消しにしようという目論見。
  • 現役世代の賃金や消費者物価の変化に年金給付額を連動させるという「マクロ経済スライド」は、現役世代が年金世代の面倒を見ているという日本の年金制度上、合理的である。
  • しかし、支持率への悪影響をおそれた政治家は(与党も野党も)、マクロスライドを適用しても名目額は前年度より減らさないという特例をつくった。このため制度発足の2004年以来給付額は増加し、積立金の取り崩しが続いた。
  • 過去30年間と同じく経済が成長せず、現役世代の賃金が上がらないと、2050年代に入って年金財政は破綻する。
  • 「票を買う民主主義」は、常に負担を将来世代に先送りするという構造的欠陥を持っている。

[社説]与党は選挙のたびに給付金を配るのか:日本経済新聞

2022年3月19日 19:05 [有料会員限定]

政府・与党が新型コロナウイルス対策の名目で年金生活者に給付金を支給する調整に入った。2022年度の年金額が0.4%減額になる分を補うため、約2600万人に1回限りで5000円程度を配る案が出ている。減額は現役世代の賃金水準にあわせて年金額を調整するもので法律に基づく改定だ。年金制度の根幹をなす措置を帳消しにするような給付金には賛同できない。

4月分以降の年金は国民年金の満額受給者で月259円、夫婦2人の厚生年金の標準世帯で903円それぞれ減額になる。4、5月分は6月15日に支給される。与党はこれが夏の参院選の逆風になると考えたのではないか。1人あたり5000円を配れば1年間の減額分を補う計算だ。

選挙の票を目当てに有権者に給付金をばらまくような政策は言語道断だ。公明党は昨年の衆院選でも子どもに10万円を配る公約を打ち出して、選挙後に実現させた。自公政権は選挙のたびに給付金を配るつもりなのだろうか。

たとえ選挙対策でなくてもこの政策には反対だ。飲食や観光など自粛政策で打撃を受けた業種で働く現役世代と異なり、高齢者の年金はコロナ下でも安定的な給付が確保されているためだ。収入が少なく住民税非課税の世帯には10万円の給付金を配ることが決まっている。与党はこの対象になる高齢者世帯には今回の5000円は給付しないとしている。そうだとすれば、低所得者支援という政策にもあたらない。

年金をもらいながら飲食店などで働く高齢者の中にはコロナで職を失ったり、収入が減ったりした人もいるだろう。だがその対策は1回限りのお金を配るよりも、その予算でシニアの就業支援策を充実させたほうがよい。

年金制度にはそもそも欠陥が指摘されている。少子高齢化の進展に合わせて年金給付を抑える措置が賃金・物価の低迷でほとんど発動されず、財政が悪化しているのだ。このままだと将来の年金水準は大きく低下してしまう。将来不安を払拭する年金改革こそが与党がなすべき仕事だ。ところが今は高齢者に協力を求めるどころか、人気取りのばらまきに走っている。あきれるほかない。

年金を台なしにする5000円給付 実現なら大失政に

2022年3月23日 5:00 [有料会員限定]

現役世代の賃金が過去3年の平均で0.4%下がったことに連動させる年金法のルールにもとづく減額だ。現役の働き手が月々払う保険料を主な財源とする年金は、その賃金や消費者物価の動向に連動させるのが基本である。そうしなければ、いずれ財源がまかなえなくなるのが明白だからだ。

厚生労働省が最後の大改革と銘打った2004年の年金改革法は、年金の実質価値を年々小刻みに切り下げるマクロ経済スライドが売り物だったはずだ。実質価値を前年度より切り下げるのだから、年金の名目額は時々の賃金・物価動向しだいで前年度より減ることもあれば増えることもある。ところが与党はマクロスライドの適用に際し、名目額は原則として前年度より減らさないという特例をつくった。この名目下限措置があだになり、マクロスライドはほとんど機能せず、年金の実質価値はなんと当時より高くなっている

年金の実質価値を示す指標に所得代替率がある。平均的な現役世代の手取り収入に対する昭和モデル夫婦世帯の名目年金額の比率で表す。マクロスライドがきちんと機能していれば、所得代替率は04年度の約60%から20年代初頭に50%強になって下げ止まる、というのが04年年金改革法の大前提であった。この前提が成り立ってはじめて年金財政の安定性が保たれるというわけだ。

だが現実には19年度の所得代替率が約62%に高まっている(グラフ参照)。そのぶん積立金を余計に取り崩しており、これからの中長期の経済動向によっては50年代に入って突如として積立金が枯渇する恐れが高まっている。日本総合研究所の西沢和彦主席研究員の見立てだ。

これが制度としての年金破綻である。万一それが現実化するなら、見た目の年金額を減らさないことに固執する与党の大失政になる。もっとも過去に「年金カット法案」というレッテルを貼って政府・与党を批判した野党も同罪だ。結局、割を食うのは50年代以降に年金をもらう今の中堅世代や若者である。


上の図の「所得代替率」というのは、年金で現役時代の平均給与の何十%をカバーしているか、を示す数字です。老齢人口が増え続け、現役世代の所得が増えないのであれば、所得代替率が下がっていかないと、財政が破綻するということは、中学生でも分かります。その中学生が65歳になるときには、所得代替率は30%くらいになっているかも知れません。彼らにこそ選挙権を与えるべきではないでしょうか?

民主主義は、国の意思決定を、様々な利害を持つ人々の「支持票」の多い少ないによって決める制度です。ですので、政策は「声の大きい」(つまり集票力のある)人々の利害に左右される傾向があります。とりわけ選挙権を持たない子供の世代の利害は反映されにくいのが実情です。しかし、その困難を乗り越えて、「国家100年の計」を考え実行するのが政治家の務めであるはずです。今の日本の政治家のように、選挙のたびにお金をばらまいて票を買おうとする民主主義では、困難な問題の解決や国民に負担を強いる政策は、すべて子供の世代に先送りするということになってしまいます。まさに「失われる50年」の根源がここにあります。(K)

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