日本の停滞の原因を探る(その1)

いわゆる80年代バブルの崩壊以降、90年代初頭から今日まで、30年以上にわたって日本は停滞している。しかも未来への投資や改革への投資も停滞しているので、この停滞は、さらに何十年も続くかもしれない。そういう認識がようやく、多くの人々に共有され、「始めた」たような気がします。

10月の菅内閣退陣と衆議院選挙が行われたこともあって、NIKKEIは集中的にこのテーマを扱っていました。そこで、まず、「日本の停滞」の指標について、整理することから始めましょう。

OECD各国の年収水準の変化

グラフ1は、OECDの2021年の資料で、購買力平価に換算した日本人1人当たりの年収水準が、この30年間ほとんど変わっていないことと、20年の時点で、先進国平均の80%に留まっている事実を示しています。(*購買力平価とは、簡単に言えば為替レートの変化を加味して、各国の通貨の力を表したものです。Big Macが日本では400円、韓国では600円(それぞれ購買力平価で)だとすると、日本人が韓国に旅行に行くと、相対的に貧しいと感じるということになります)

日本の年収、30年横ばい 新政権は分配へまず成長を 2021年10月16日

経済協力開発機構(OECD)のデータでみると、上位1%の世帯が所有する資産は国内全体の11%にとどまる。厚生労働省によると所得1000万円以上の世帯は2018年時点で全体の12%で、1996年のピーク(19%)から7ポイント低下した。

ジニ係数でみても、日本は米英より小さい。アベノミクスで格差が拡大したとの見方もあるが、2010年代は小幅改善した。

富の偏在の国際比較

総務省は「子育て世帯の雇用環境の改善や、足元での高齢者の所得増が背景にある」と分析する。19年の就業者数は10年前比で約400万人増え、中でも65歳以上の高齢者や女性の雇用が拡大した。

富裕層も含めた国民全体の生活水準が地盤沈下する日本の実態だ。


この記事は、衆院選で各党が「分配」を強調しているのに対して、「日本は所得格差が拡がっているのではなく、富裕層を含めて生活水準が低下している。それを上げるには、日本を再び成長軌道に乗せる政策が必要だ」ということを主張するものです。

これは少なくとも経済界のコンセンサスだったのでしょう。岸田首相も途中から軌道修正して、「成長も分配も」と言い始めたので、分配一点張りに加えて、消費税の減税や停止を訴えた野党を押さえて、絶対安定多数を確保できたのは、記憶に新しいとことろです。

(グラフ2)は、国際経営開発研究所(IMD)が毎年出している、「世界競争力年鑑2020年版」からとったものです。国の競争力に関連する統計データと企業の経営層を対象とするアンケート調査結果が63か国について集計されています。

90年代初頭はトップクラスだった日本が、どんどん順位を下げ、去年は63か国中34位と、ついに中間地点を割り込みました。

これはNIKKEIではなく、三菱総研の「エコノミックレビュー」から抜粋したものです。非常に詳しいデータが引用されているので、是非ご覧になってください。

次は、このIMD報告に関するNIKKEIの記事です。

日本の国際競争力、過去最低34位 コロナ禍を逆転の転機に」2020.7.14

この世界競争力ランキングについて、IMDは「企業が持続的な価値創造を行える環境を、どの程度、育めているか」と定義し、「経済パフォーマンス」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラストラクチャー」の4つの要素、約300の指標から順位付けをしている。

同ランキングでは1992年まで首位にいた日本。その後の転落で特に足を引っ張っているのが「ビジネスの効率性」の領域だ。ビジネスの効率性に限れば昨年の46位から今年は55位に順位を落とし、全63の国・地域の中でもかなりの低水準だ。

日本でビジネスに携わった人の「企業の俊敏性」「起業家精神」に対する採点による順位は63位、「大企業の効率性」や「国の文化の開放性」は62位だ。

低評価だったビジネスの効率性は60の指標の3分の2がサーベイデータ。つまり、日本でビジネスに携わった人の評価がより反映されたものとはいえ、必ずしも客観的なデータではない。IMDの高津尚志北東アジア代表は「回答者は国際的な経験をしている人が多い。日本が本来あるべき姿と現実にギャップを感じている歯がゆさがランキングに反映されている」との見方を示す。


またNIKKEIは、IMDのデータの内、デジタル競争力に絞って記事を書いています。

日本のデジタル競争力、28位で過去最低」2021年10月22日

スイスのビジネススクールIMDが公表した2021年の「世界デジタル競争力ランキング」で、日本の総合順位は64カ国・地域のうち28位だった。17年に調査を始めてからの最低を更新し、中国や韓国、台湾など東アジア諸国・地域との格差は鮮明だ。日本の弱点はどこにあり、どう克服すべきか。IMDの高津尚志・北東アジア代表に聞いた。

「新型コロナウイルスの感染拡大で企業はビジネスモデルの転換を余儀なくされており、変化への対応が必要だ。こうした状況では、社会的な適応性とビジネスの俊敏性が重要な意味を持つようになっている。ランキングの上位には、知識集約型の経済を継続的に発展させている国や地域が入っている」

――日本の順位が低い背景には何がありますか。

「総合順位を構成する要素である『サブ因子』を細かく見ると、よく分かる。例えば『ビジネスの俊敏性』は53位だ。俊敏性とは顧客や従業員の声を聞き、データに基づいて意思決定し、完璧さよりもスピードを重視して実行することを意味する。日本は、これができていない」

「さらに『人材』では47位だ。国際経験に乏しく、デジタル技術のスキルも低い。『規制の枠組み』も48位と低迷している。スタートアップがビジネスしやすい環境を整えられていないほか、海外からの高度人材を取り込むこともできていない」

韓国は20年前、アジア通貨危機の打撃から立ち直る戦略の中心にITを据えて、世界最先端の電子政府を構築した。日本総合研究所の野村敦子主任研究員は「当時の日本は、デジタルが優先課題であるという認識が薄かった」と指摘する。デジタル化を長年にわたり放置してきた「ツケ」が回ってきているともいえる。


日本の停滞を示す指標は、この他にもGDPや1人当たりGDPなど、色々ありますが、グラフ1の停滞する所得は、一番ショッキングなデータだと思います。また、勤労者、生活者の実感として納得できるものがあります。

一方、デジタルを含めた競争力の低下は、この停滞の背後に、明らかに政府の不作為や、経済界、科学技術界の慢心や硬直的な文化があったことを示唆しています。実は、問題の根はもっと深く、日本人の文化にまで行きつくというのが、私の考えなのですが、それを、次回から、日本の長期停滞の原因に関する記事をもとに、考えていきたいと思います。(K)

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