日本のデジタル化を阻むもの(その1)国

ここからもう少し具体的に、日本のデジタル化を阻んでいる要因について、次の6つの場面と側面について見ていきたいと思います。論点はそれぞれにまたがってあるので、その都度整理していきます。

デジタル化を阻むもの

  • (その1)国 縦割り組織
  • (その2)地方 独自システムとベンダー依存
  • (その3)中小企業
  • (その4)人材
  • (その5)データの統一

(1) 国 縦割り組織

 政府が最初に「世界一の電子政府」を目指して経産省や内閣府にプロジェクトチームを作ってから20年以上が過ぎました。全て掛け声倒れに終わる中、日本のデジタル競争力は先進国の中で下がり続け、コロナ禍が菅前総理の周辺の足元に火をつけることになったのでした。もし10年後に本当に日本が世界有数のデジタル先進国になっていたら、全てコロナの恩恵だった、コロナが令和の黒船だったと語り継がれることでしょう。

 日本政府は何故デジタル・ガバメントに失敗したのか?最初の記事は、その原因を極度の縦割り組織に求めています。

「デジタル以前に、仲が悪い」霞が関DX阻む省庁の壁

2021年8月30日 [有料会員限定]

(昨年)9月1日のデジタル庁発足を控え、霞が関の中央省庁や自治体の職員、企業の社員らが有志で参加する勉強会「デジタルガバナンスラボ」は、平井卓也デジタル改革相に対して行政DXに関する提言を発表した。参加する有志は、中央省庁や自治体の職員のほか、IT企業などの社員、弁護士、大学研究者、地域の課題解決に市民自らがITを使って取り組む活動である「シビックテック」の関係者などである。

提言の柱は4つ。

  • システムを継続的に改良する点を踏まえた、調達実務改革
  • 府省庁横断のDX推進のための新たな組織・予算
  • 官僚幹部に対するリスキリング
  • 外部との連携プロジェクト参画含めたOJT(職場内訓練)型研修の推進――である。

2つ目にある「府省庁横断のDX推進のための新たな組織・予算」を平井氏に提言したのは井上裕介氏だ。井上氏は約20年にわたり厚生労働省に勤めるなかで感じた課題を提言に込めた。

「デジタル以前に、霞が関の府省庁間の仲が悪いのが問題だ。それがシナジーを阻んでいる」と井上氏。背景にあるのが、各府省庁内の縦割りの中で政策立案から予算編成、予算執行までが進められる現状だと話す。

井上氏自身は厚労省職員としては異例のキャリアを歩んできた。社会福祉系の部署である社会・援護局を振り出しに、その後は労働系の部署に異動。内閣府への出向を経て、厚労省職員として初めて経済協力開発機構(OECD)や世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターなどの国際機関に出向した。

こうした経験から、「国際機関では異なる組織の人と話して解を見つけていく。日本の役所と全く異なる。府省庁間に横串を刺して政策の議論やプロジェクトを進めていけるようにしたい」と考えるようになったという。

井上氏は21年5月から厚労省の新型コロナウイルス感染症対策推進本部の所属となった。コロナ対策で他の府省庁と連携してプロジェクトを進めるなかで自分が変わっていくのを感じたという。

「厚労省職員として固定化していたマインドや思考が、他府省庁の職員と一緒にデジタルの議論をするに連れ『一緒に進めよう』と柔軟な考え方も生まれてきたと感じる。そうした経験からDX審議会や府省庁の横断予算があると、府省庁の縦割りを排して政策のシナジーを起こし霞が関のDXを進められるようになるのではと考えた」(井上氏)

そこで提言では、府省庁横断のDXを推進するため、各府省庁に「DX審議会」を設置することを盛り込んだ。DX審議会は、これまでの調整型の政策立案プロセスを議論する場ではなく、全体最適を目指して「べき論」を議論する場とする。また、DX審議会の委員はデジタル庁内の審議会委員との兼務とし、システム連携など各府省庁のシナジーを生みやすい人員構成にするよう求めた。

そのうえで、府省庁横断プロジェクトの予算を付けることを求めた。

提言の1つ目にある「システムを継続的に改良する点を踏まえた、調達実務改革」は及川涼介氏が平井氏に発表した。及川氏は17年4月に総務省に入省し、マイナンバーカードの普及やマイナンバーの情報連携など、一貫してマイナンバー関連の事業に携わった。20年7月に行政のデジタル化を支援するスタートアップのグラファー(東京・渋谷)に転職し、現在は自治体へのデジタルサービス導入を支援している。

及川氏は総務省職員だった頃よりも、グラファーに転職後のほうが自治体で現場の声を直に聞いて課題を認識する機会が増えたという。「企業と比べると、今までの行政機関はエンドユーザーの声を聞いて継続的にシステムを改善していく機会が少なかったと実感している。それをどう変えられるかは、デジタル庁の挑戦だ」と期待する。

こうした期待から及川氏らは提言に、オープンソース戦略の推進のほか、内製チームの組成、「デジタルマーケットプレイス」の整備を盛り込んだ。

デジタルマーケットプレイスとは、ITベンダーが実績のあるデジタルサービスやアプリを登録し、行政機関がそこから選んで調達する「場」のことだ。各種サービスやアプリの導入に関する知見を行政機関で横展開できるだけでなく、調達の事務コストの削減につながると期待する。

デジタルガバナンスラボは提言を出し、平井氏と意見交換して終わりではない。その後もSlack上で若手官僚らが、例えばシステム調達といった具体的な課題について議論を繰り広げている。

デジタル庁は行政機関の縦割りを崩して、横串でデジタル化を進めることを目指す。そのためにも、まずは霞が関の職員や自治体の職員、行政と仕事をする企業の社員など、現場の人たちによる地に足の着いた議論に耳を傾け、協働していく必要がある。


既出の記事とダブりますが、一部再掲載します。冒頭の関連記事は日経記事の本体にリンクします。

デジタル化拒む本能使い勝手よりも組織優先

2021年11月25日

9月に発足したデジタル庁の動きが鈍い。政府内のやりとりからは電子化の推進役とはほど遠い姿勢が浮かび上がる。首相官邸が行政手続きの電子化を求めても「個人情報を扱うのでいいかげんなシステムはつくれない。時間がかかる」と釈明する。マイナンバーカードに運転免許証の情報を登録する計画に警察庁は「現在は情報管理するシステムを各府県警察で個別に整備しており、データ標準化も不十分」と説明する。カードの使い勝手をよくする主目的よりも、各地の警察が情報を囲い込む現状のままでいいとの思いがのぞく。2025年3月の実施予定だが当初の目標は26年中とさらに遅かった。

デジタル庁の民間人材も突破口になっていない。企業出身の職員が電子化を提案すると、個人情報保護法や自治体実務の慣習を盾に「複雑な業務だから無理」と返される。「技術に詳しくても行政知識で負けるので論破しにくい」とこぼす。

根底にあるのは自らが抱える情報を公開することへの強い拒否反応だ。情報やデータのオープン化によって政府の活動を透明化する流れが世界の民主主義国で加速する中、壁をつくることで自らの責任が問われるのを避けようとする日本の行政機構。その姿は進化の流れに取り残される恐竜のようにも見える。

この構造を反映した数字がある。「1900、1300、1300、4100」。25年までに電子化をめざす手続きの年ごとの件数だ。最終年への集中を内閣府幹部は「なるべく先延ばしする思惑だ」と指摘する。


前の記事はデジタル庁発足前の「計画段階」のもの、後の記事は発足後のものですが、勉強会「デジタルガバナンスラボ」の「提言」がどのように生かされたのか、生かされなかったのかという分析記事がまだありません。いやそもそも「デジタルガバナンスラボ」の活動に関する情報がないのです。後者の記事を読むと、胸騒ぎがしますね・・・岸田政権には前政権のような危機感が感じられないと多くの人々が感じていることでしょう。(K)

        共生社会の実現をめざします!

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