女性の人材活用はなぜ進まないのか(1)非正規雇用の罠

日本社会の多様性(Diversity)の遅れを最も象徴するのが、女性の人材活用だというのは内外の常識になっています。

世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数2021」(GGI)によると、日本の「経済」の順位は156か国中117位(前回は115位)、「政治」の順位は156か国中147位(前回は144位)となっています。

女性の人材活用がなぜ進まないのか?その影響は何か?というのがこのシリーズのテーマです。

論点は3つあって、

  • 男女の社会的な役割に対する保守的な意識が、世代を超えて受け継がれている。
  • 結婚、出産、育児家事が、女性のキャリア形成を阻んでいる
  • 女性の非正規雇用の増大が、企業の低い生産性の固定要因になっている

このうち、M字カーブ、新M字カーブと呼ばれる❷❸について、NIKKEIの記事をまとめてみました。

【このブログの骨子】

  • 女性が非正規・短時間労働が多いのは、正社員の働きにくさ(長時間労働、転勤)と家事育児が女性に集中しているという、複合要因による。
  • 女性の非正規職が多い結果、コロナ禍では正規職を守るための雇用の弁として使われ、かつスキルアップの機会もなかったので、転職・再就職を断念するケースが激増した。

*M字カーブというのは、女性の就業率と年齢の相関をとった時に、結婚、出産適齢期の30歳前後で一度ガクッと減り、40代後半にパート労働者として就業率が再び上昇するグラフが、Mの形になっていることを指しています。

コロナ禍で露呈 女性と就業「M字カーブ解消」の虚実

2021年5月24日

「M字カーブは解消した」。そんな言葉が聞かれたのは19年、女性の就業者数が3000万人を突破した頃だ。アベノミクスは女性の雇用で成果をあげた、と評された。しかしその内情を見ると、女性の雇用者のうち半数以上は非正規労働者が占める。この割合は男性の2倍以上だ。そして年齢に伴い女性の非正規雇用の割合は上昇する。

  • 日本では残業付きであることの多いフルタイム就業ができない場合、働き方の選択肢は非正規労働に限られる。
  • さらに性別役割分業意識が強く、家事・育児負担の多くは女性が負う。

そのため働く女性が増えても、結婚・出産後に職を失った際の再就職先はほぼ非正規雇用だ。女性の活用は進んだが、結果的には非正規労働者という雇用の調整弁としての活用だった。

新型コロナウイルス禍は、その実態を露呈させた。多くの非正規雇用の女性が失業し、再就職をあきらめる人も目立つ。総務省が4月に発表した2020年度平均の就業者数をみると、非正規の女性雇用者は前年度比で65万人減った。非正規男性の32万人減に比べ、2倍以上の落ち込みだ。宿泊や飲食、小売りといった女性の割合が高い業種が、営業時間短縮などのあおりを受けたことが響いた。

20年11月に日本女子大の周燕飛教授が関わった調査では、解雇や離職後に就労も求職活動もしていない、いわゆる「非労働力化」した女性の割合は21.6%と男性(7.4%)の3倍にのぼった。

スキル高まらず、職探し困難に

慶応大学の風神佐知子准教授(労働経済学)は「非正規労働者の賃金や労働条件は低い状況にあるうえ、能力開発機会が少なく、スキルアップできぬまま固定化してしまうと指摘する。「家事や子育てを理由に短時間労働を選ぶ女性に、職場は補助的な働きだけを求めてきた。そして労働者自身もキャリア形成の意識が低かった

風神准教授は「企業や政策で女性の職能スキルを高める相応のコストを出すべきだ。テレワークなど新たな働き方が広がれば、働きたくても働けなかった女性の潜在労働力を発掘する機会にもつながる」と話す。女性活躍の流れを巻き戻さぬよう、社会の構造を変える必要がある。

女性就労、もう一つのM字 労働時間差が映す男女不平等

2022年1月16日 

日本は仕事を持つ女性の比率が結婚・出産期に落ち込む「M字カーブ」がなだらかになる陰で、労働時間は二極化したままだ。女性はフルタイムと短時間の2つの山による「もう一つのM字カーブ」が浮き出る。

週5日勤務で計算すると、男性は1日8時間以上働く人が就業者の7割を占める。女性は4割にとどまる。

厚生労働省の調査で、女性が正社員以外で働く理由として最も多かった回答は「家庭の事情と両立しやすい」(41%)だった

「日本は正社員で働く負担があまりに重い」と日本女子大学の大沢真知子名誉教授は指摘する。日常的に残業があり、定時で帰れることは少ない。国内外の転勤は家庭生活との両立が難しい。そのしわ寄せが女性に偏る。国際労働機関(ILO)によると、週平均の労働時間の性差は主要7カ国(G7)で日本が最も大きく、10時間を超える。米国やフランスは5時間ほどだ。

埋もれている女性の力を引き出すメリットは大きい。慶応大学の山本勲教授らが10~15年の上場企業のデータを調べたところ、女性の管理職登用率が0.1ポイント上がると総資産利益率(ROA)が約0.5%、生産性が13%高まる関係がみられた。登用率が15%を上回ると企業業績が明確に向上する傾向もあった。「昇進の可能性が開かれることでモチベーション向上を通じ生産性が高まっているようだ」と分析する。

思うように働けない女性の存在を映す「もう一つのM字カーブ」の解消は日本の成長を左右する。

岩間陽子政策研究大学院大学 政策研究科 教授

分析・考察これまでの女性の就労支援は、待機児童を減らすなど、女性の側を支援する方向でしたが、それだけではおそらく限界があると思います。正規と非正規の働き方の差が大きすぎるため、結局家事・子育てを女性が担い、非正規を選ぶことが多くなっています。それだけでなく、シングルマザーも正規職員になることがたいへん難しくなっています。今後は、正規職員の働き方を柔軟化していき、週休3日や短時間勤務、リモート勤務などを選べるように制度を整え、男性の家事・育児参加を促すと共に、子育てや介護、あるいは何らかの障害を抱えている人も、充実した社会参加が可能になるようにしていくべきではないでしょうか。


日本で女性の人材活用が進まない原因は、ほぼ次のように定式化できます。

企業(職場)での長時間労働の常態化
(≒ 生産性の低さ)

家庭内の家事・育児負担の男女不均衡(根強い性別役割分担意識)

日本企業の長時間労働、生産性の低さについては、sDgs(「失われた30年」)やDigital(「日本のデジタル敗戦」)などの記事を参照してください。右の家事・育児負担の男女不均衡の問題については次のブログで扱う予定です。(K)

        共生社会の実現をめざします!

You Tubeチャンネルに「外国人雇用丸わかり、早わかり」シリーズ動画を掲載しています!

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