女性の人材活用はなぜ進まないのか(2)デジタルと教育

日本で女性の就労が非正規短時間雇用に偏っている背景には、正社員の働きにくさ(長時間労働、転勤)と家事育児が女性に集中している複合要因があると前回のブログで指摘しました。今回は、日本企業のデジタル化の遅れとも深い関係があるというお話です。そして正規雇用への転換と幹部社員への登用には、女性社員の教育に企業がもっと投資する必要があるという論点に触れます。

【このブログの骨子】

  • 女性がデジタルで代替可能な補完的業務を主に担ってきた為、AIなどのデジタル化の進展で最も失業リスクが高い。
  • しかし企業は彼女らを簡単に解雇できないので、なくなる仕事から新たに必要となる仕事への労働移動を進めるために、「リスキリング」(学び直し)への投資が迫られている。
  • 「リスキリング」が成功すれば、デジタル化は逆に柔軟な就労形態を望む女性のポテンシャルを解放することができるかも知れない。
  • さらに女性の管理職進出を阻んでいる要因に、女性自身の自信のなさへの思い込みがあるので、リーダーシップ教育を早期に導入することが必要

女性の失業どう防ぐ 学び直し、少子化日本の成長左右

リスキリングで挑む(下)2021年8月13日  [有料会員限定]

デジタル化は働き手に変化を迫る。従来の仕事がなくなり、培ってきた能力や知識は無用の長物になりかねない。日本でその影響を強く被るのが女性だ。IMFが公表したリポートは、働く女性の14%が技術的失業リスクにさらされると試算する。男性の3倍超だ。

経済産業研究所の岩本晃一リサーチアソシエイトは「デジタルで代替可能な補完的業務を主に女性が担ってきた。女性活躍が逆戻りする可能性もある」と指摘する。

規制が厳しい日本では、担当業務がなくなっても簡単に解雇はできない。金融や商社など、大量に事務職女性を新卒採用してきた企業は危機感を募らせる。

「自分の成長を感じつつ、新たな活動に取り組んでほしい」。明治安田生命保険の永島英器社長は7月、就任早々にメッセージを発した。ターゲットは4月に会社が新設した事務サービス・コンシェルジュだ。

契約者の自宅などに出向き、支払い手続きや遺産整理などの相談に乗る。内勤事務を主に担っていた女性社員2000人が職種転換した。オンライン教材を作り、職場で勉強会を開いて、リスキリングを支える。

セールスフォース・ドットコムとデロイトトーマツはDX人材育成プログラム「Pathfinder」を10月から日本で提供開始する。3カ月の研修は無料。修了後はセールスフォースの顧客など就職先も紹介する。「日本女性はもっと活躍できる」として女性に受講を働きかける。

新型コロナウイルス禍で企業はデジタル化を加速した。三菱総合研究所の山藤昌志主任研究員は「職のミスマッチが前倒しで起きる」と指摘する。23年には155万人の事務職が、30年には生産・輸送・建設に携わる110万人が余剰人員になると試算する。

ただでさえ生産年齢人口の減少が深刻な日本。コロナ不況から経済を回復させるカギはリスキリングにある。なくなる仕事から新たに必要となる仕事への労働移動を進められなければ企業は成長力を失い、世界の競争から取り残される。

岩間陽子政策研究大学院大学 政策研究科 教授

日本の問題は、特に主婦の場合は、そもそも家庭にパソコンやWi-Fi環境がない、デジタルスキルを身につける機会がない、などの末端の問題もあります。同時に雇用主側に、業務のデジタル化を進めるためのシステム構築の能力が欠けていることも大きな問題です。リスクとコストを背負ってシステムに投資しなければ将来はありませんから、政府はそこを積極的に支援すべきです。そこが突破できれば、デジタル化はむしろ柔軟な就労形態を望む人々の味方になり、大きなポテンシャルを解放できるはずです。

中村奈都子日本経済新聞社 編集委員

日本の女性が世界的にみて高い失業リスクにさらされているのは、企業がデジタル化を先延ばしにしていつまでも紙や手作業にこだわってきた故、といえるでしょう。コロナ禍で一気にデジタル化を迫られているわけですが、いままでやってきたことが全て無駄になるわけではありません。コミュニケーションや時間管理のスキルは立派なキャリアです。これまでの人脈もありますね。企業の教育制度だけでなく国による制度などを活用して新しいスキルを身につけ、自信を持って活躍の場を広げて欲しいと思います。

責任ある仕事を避ける女性たち

国際NGOプラン・インターナショナル「日本における女性のリーダーシップ2021」レポートより

  • 18 歳以上の学生以外の1,000人および15 歳から24 歳の学生1,000 人へアンケート調査の結果、学生の回答者のうち「将来リーダーとして職場で責任のある仕事」を希望している女性は9.4%と男性の約半数に留まった。
  • ジェンダー平等教育を受けた経験と将来のリーダー志向の相関に関しては、将来リーダーとして責任ある仕事を「したい」と答えた女性の85%以上がジェンダー平等教育を受けた経験が「ある」と回答。

アドボカシーグループリーダー 長島美紀のコメント
本調査が明らかにしたのは、管理職・上級職昇進を阻む「自分自身が設定しているガラスの天井」の存在です。リーダーとして責任ある仕事に就くと「責任が重くなる、仕事時間が増える」といった否定的なイメージ、リーダーとなる人は「冷静で感情的にならない」「大局を見通せる」といった個人の性格に紐づくという思い込みが、自分自身がリーダーとなって責任を果たすことを躊躇したり「できない」と決めつけることにつながります。
リーダーシップは先天的なものではなく、学び、経験を積むことで身につけることができますが、それを阻んでいるのが自分たち自身なのです。
女性が男性に比べてリーダーシップを発揮したいという意欲が弱いという結果は、「女性が望んでいないから無理にリーダーを女性から選ぶ必要はない」という結論を引き出しがちです。しかし私たちは「望んでいないから女性リーダーは不要」と考えるのではなく、「なぜ女性自身が望んでいないのか」を考えたいと思います。ジェンダー平等教育を受けた生徒・学生は男女共にリーダー志向が強いという結果は、ジェンダーや人権に配慮した適切なリーダーシップ教育を早期に導入することで、学生時から自分自身の可能性をあきらめるのではなく、リーダーとして活躍する機会を獲得しようと思う女の子・女性を増やすことにつながる可能性を示唆しています。プラン・インターナショナルでは、引き続き女の子のリーダーシップについて発信していきたいと考えています。


2番めの話題は、「リスキリング」の問題とは少し違うのですが、女性の多くをデジタルで置き換えられる単純労働にとどめ、管理職や専門職な組織内でリーダーシップが求められるポジションへの進出を阻んでいる要因には、日本独特のジェンダー文化があるという点が見過ごせないのです。それは女性は男性と異なって、「感情的」「理性的判断が苦手」「リーダーシップが無い」「創造性が無い」ので、組織で責任ある仕事につくよりも、家庭を中心にあくまで家事・育児と両立する範囲で仕事をすればいいし、それしかできないという考え方で、小さい頃からの家庭や学校での教育に原因があると考えられています。この問題が端的に現れているのが、結婚した夫婦の家事・育児の分担が、女性に偏っているという事実で、次回取り上げてみようと思います(K)。

        共生社会の実現をめざします!

You Tubeチャンネルに「外国人雇用丸わかり、早わかり」シリーズ動画を掲載しています!

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