日本のデジタル化を阻むもの(その2)地方

日本のデジタル化を阻むものとして霞が関の組織よりも深刻なのものが、地方自治体ごとにバラバラなシステムの問題があります。2つの記事には重複し前後するところもありますが、骨子をまとめると次のようになります。

【このブログの骨子】

  • 20年前の地方分権改革で、国と地方の権限関係はあいまいになった。建前は地方の自主性を尊重しつつ、国にも裁量権と関与を残した。
  • 地方分権の建前は、地方自治体のデジタルシステム構築に悪影響を与えた。独自のシステムを作りたい自治体と、その方が儲けが大きいシステム開発業者の利益が一致し、互いに互換性のないシステムが乱立した。その結果、紙とFAXに依存した業務が今も大多数を占める。
  • このような互換性のないシステムと国・地方権限のあいまいさが、10万円定額給付のように一律に緊急措置を取る時にマイナスになった。
  • 2025年までに法律によって、ガバメント・クラウドという共通システムが構築されることになった。並行して国と地方の権限関係の整理も進められるべきだ。

デジタル時代の地方分権論 国と自治体の役割再考を

2021年1月6日 2:00 [有料会員限定]

2021年はデジタル政府元年になるのか。焦点の一つが、国と自治体の業務をデジタルに適した形にどう変えるかだ。この改革は中央集権を促す面がある一方、地方自治の質を高める手段にもなる。デジタル時代の地方分権論議を深めたい。

20年前のきょう1月6日、官僚主導の裁量行政を見直す「平成の統治機構改革」の一環として中央省庁が再編された。政治改革、規制緩和、地方分権といった一連の統治機構改革は、いずれも霞が関の力をそぐのが目的だった。地方分権は国の関与を弱め、自治体の裁量を広げようとした。省庁は補助金を出す条件として細かな基準を設け、自治体が従わざるを得ないようにして実質的に裁量を維持した。

それから約20年、国と地方の関係はゆがみをみせる。

宍戸常寿・東大教授は「情報基盤がばらばらであるために、国が統一すべき行政が統一されていない問題が露呈している」とみる。コロナ禍で連携が取れない医療行政や、指導内容を整理できず現場に負担を強いる教育行政がその代表例とする。

デジタル化はこうした課題で国主導の統一を促そう。それは行政課題が複雑になる中、時代にそぐわなくなった分野での地方分権の修正を意味する。世界的にも地方政府の独立性が高い連邦制のドイツなどで、国が地方への関与を深める例が増えている。

一方で、デジタル化は地方分権を深化させる手段にもなる。オンライン化やプッシュ型支援の進展は行政との接点を増やし、住民参加を促す。

デジタル化でデータが増えれば要望を細かく把握し、政策を個別化、重点化できる。富士通総研の若生幸也・公共政策研究センター長は「デジタル化を政策の高度化につなげる視点が重要だ」と話す。

平成の分権は自治体の権限強化が主体で、住民がかかわる住民自治は後回しだった。昨今の分権論議の停滞は住民の関心の薄さが一因だ。デジタル化で住民参加や政策の水準が上がれば、住民自治が根付き、分権の質を高めよう

デジタル化は明確なルールを好み、曖昧な裁量を嫌う。エストニアがデジタル化を進めたのは、旧ソ連下で官僚の気まぐれな裁量に苦しめられた経験が底流にあるという。

日本の行政は、霞が関が曖昧な裁量で自治体に関与し、国と地方の役割が重なり合う「融合型」だ。デジタル化を機に役割が整理されれば、コロナ対応のように責任の所在が曖昧になることも減ろう。

国と地方が役割分担を明確にしたうえで、コロナなど複雑になる課題に連携して対処できる統治機構を探りたい。

自治体システム、乱立に歯止め 仕様統一へ国が新法  

2020年12月3日 1:00  [有料会員限定]

政府は約1700に上る地方自治体の情報システムについて仕様を統一する。2025年度までの実現を義務付ける新法を定め、予算を基金で積む。「地方自治」で各自治体が独自に構築した結果、連携ができずに非効率を招いている。新型コロナウイルス禍で行政対応の問題が露呈した。とはいえ官民が築いた既得権の壁は高く、看板倒れになる懸念もある。

対象となるのは住民情報や税、社会保障、就学などの情報管理や手続きなどを担う住民サービスの根幹業務だ住民基本台帳や選挙人名簿管理、固定資産税、国民年金、介護保険、児童手当など17分野のシステムを国が主導して標準化する。

これまでは地方自治法の解釈に基づき自治体ごとにIT(情報技術)ベンダーに発注してきた。企業は個別に異なる設計をした方が収益が上がり、自治体はそれぞれの事務に合わせた機能を求める。利害が一致して独自仕様が乱立してきた。総務省の18年の調査では人口10万人以上の自治体の83%が業務ソフトを独自開発しているかカスタマイズしている。NEC富士通日立製作所NTTデータなどの大手ベンダーやその子会社が主に受注してきた。

同調査では約1700の自治体が情報システムにかける年間予算は4800億円。もし同じ仕様で全国の自治体が発注すれば調達費や運用費は大きく下がる。大手システム会社の幹部は「仕様の統一やクラウド化を進めれば、大幅に予算は減るだろう」と話す。

共通の仕様なら国と地方、自治体間の連携も進む。データの処理を自動化したり、全国一斉に迅速な行政サービスをしたりできるようになる。

「仕様の統一」をしても範囲が狭ければ結局、独自仕様が増え調達コストが上がる。自治体やベンダーとの関係を重視した設計なら非効率が残り、住民サービスの改善も不十分になる恐れがある。

そこで基幹業務システムのインフラも、クラウドを前提としたものへと変えていく方針だ。保守や運用を外部組織に任せるマネージドサービスを利用できるようにしたり、クラウドの利点を業務上で徹底的に活用できるようにするクラウドネイティブ化を進めていく。ガバメントクラウドの目指すところとしては、複数の事業者が標準仕様に準拠して開発したアプリを、自治体が選択できるようにし、また自治体が基幹業務をオンラインでできるようにすること、等がある。

なお情報セキュリティについては、「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の改定が2020年12月になされている。この新しいガイドラインでは、クラウドサービスを利用する際の注意点や、リモートアクセスのセキュリティについてもカバーされている。


上のガバメント・クラウドの絵は、かなり単純化して描きました。実際には、それぞれの自治体のホームページなどの「個性」は残ります。システムの統一という点では、実は戸籍や住所などのデータの表記の仕方が、自治体ごとにバラバラであるという大きな課題があります。またクラウドシステムを、本当に住民の地方自治への参加を促し、住民ファーストの行政サービスを実現できるかどうかは、自治体の首長と公務員の意識にかかっています。(K)

        共生社会の実現をめざします!

You Tubeチャンネルに「外国人雇用丸わかり、早わかり」シリーズ動画を掲載しています!

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