女性の人材活用はなぜ進まないのか(3)女性の活躍を阻む日本の文化と教育

 日本で女性の人材活用が進まない原因を見てきました。デジタルに置き換えるべき付加価値の低い仕事が、非正規雇用の女性に押し付けられてきたこと。そもそも女性のリーダーシップ発揮を抑圧するような、ジェンダー教育が行われてきたことが指摘されています。今回は、一番大きな原因と私が考える家事分担の問題を取り上げます。

【このブログの骨子】

  • 家庭内の「無償労働」=家事分担の割合は、日本の場合女性が男性の5.5倍にあたる。
  • コロナ禍でこの傾向にさらに拍車がかかった。特に日本の場合、共働きでも妻が夫とのトラブルを避けて家事を今まで以上に背負い込むケースが多い。
  • こうした男女の役割分担意識を助長している一つの制度的要因が、年収130万円を超えなければ妻が年金加入の夫の扶養に入り、保険料の負担を免除されるという第3号被保険者制度。
  • 男性の有償の育児休暇制度は既に世界一の長さで、22年度にさらに柔軟性を高めた改正育児・介護休業法が施行される。家事労働の有償化に向けた制度設計の変更が必要だ。

家事不均衡、在宅で拡大の怪 性別の役割意識強く

2022年2月6日 [有料会員限定]

家事・育児の負担はもともと女性に偏る傾向があった。経済協力開発機構(OECD)がまとめたコロナ流行前のデータによると、家庭内の「無償労働」に割く時間は多くの国で女性の方が長い。日本が男性の5.5倍、韓国が4.4倍と主にアジアが目立つだけでなく、米国(1.6倍)やフランス(1.7倍)も少なからぬ差がある。

この傾向にコロナで拍車がかかったことが様々なデータから浮かぶ。国連の20年11月のリポートによると、計38カ国・地域の調査で家事などに費やす時間が増えたとの回答は女性が60%と、男性の54%より多かった。

日本でも内閣府の21年秋の調査で、家事・育児の時間が増えた割合は女性が44%で、男性の38%を上回った。妻がフルタイム勤務でも妻の負担がコロナ下で6割に達するとの数字もある。

なぜ不均衡が解消しないのか。恵泉女学園大学の大日向雅美学長(発達心理学)は「コロナ禍という非常時で多くの人が心身の余裕を失った」との見方を示す。役割分担を見直そうとしてもうまくいかない。衝突を避けようと、妻の側が今まで以上に責任をしょい込む例が少なくないという。

社会構造的な課題も横たわる。立命館大学の筒井淳也教授(計量社会学)は「日本は家事労働者を家に入れるのが一般的でなく、家事が家庭で完結しがち」と指摘する。家事は家庭の個別の事情による部分もあり、外部化しにくい。

ドイツやフランスには家事サービスの利用料について税優遇する仕組みがある。家庭の負担を社会で支援するという政策的メッセージだ。同様の税額控除は関西経済連合会が要望しているが、議論が進むか見通せない。

時代にそぐわない仕組みが性別の役割分担意識を助長している面もある。配偶者が社会保険に加入していれば、自身の年収130万円を超えない限り年金・医療・介護保険料の支払いが免除される第3号被保険者制度が一例だ。男性が外で長く働き、女性が家庭で支えるという古くからの構図がなかなか変わらない。

変化の芽はある。東京大学の山口慎太郎教授(労働経済学)らの研究によると、在宅勤務が週1日増えると男性の家事・育児にかける時間が6.2%、家族と過ごす時間が5.6%それぞれ増えた。全体として女性との差はなお大きいとはいえ、男性の家庭進出も少しずつは進んでいる。

22年度には男性が子の生後8週間以内に最大4週間の育休を取れるなど柔軟性を高めた改正育児・介護休業法が施行される。国連児童基金(ユニセフ)によると、日本は男性が収入保障付きで休める長さはOECD加盟国など41カ国で首位だ。こうした制度を利用する側の企業や個人の意識改革もカギになる。


 年金というのは男女の区別なく、個人に年金番号が割り振られることでも分かるように、建前は個人の権利とされています。ところが年収が130万円以下であれば妻が働いていても、年金保険料の納付が免除されます。考えてみればおかしな制度ですが、夫は外で稼ぎ妻は子どもを生み育て家を守るという、日本の伝統的家庭観を守るために、この制度は続いてきたと言えます。

 30年にわたって夫の収入が増えず、妻が働かざるを得なくなったのに、制度が変わらないため、それでは年収130万円以下に収めることのできる非正規雇用でいいか、ということになります。子どもに手がかからなくなって、再び働くようになっても非正規雇用を選ぶ。それが新M字カーブの背景でした。

 ただ、何十年も続いてきた制度を廃止し、控除をなくして妻を職場に追い立てるような制度改革は政治的に不可能でしょう。まずは男性にそして何より企業経営者に、「プライベート生活あっての仕事」(Work in Life)という発想の転換を促すため、家事に費やした一定の時間を報酬にカウントするような制度設計が必要だと言えます。例えば朝夕合計5時間はテレワークを義務化し、出勤時間を6時間上限とするなど。(K)

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