民主主義VS権威主義(その2)アメリカの衰退②

前回と今回で、アメリカの民主主義の凋落の背景を探っています。

  • アメリカの国力の衰えとは、民主主義の衰えでもある。
  • 民主主義の衰えの一つの要素は社会の分断で、それは10年前のリーマンショックの後の「ウォール街占拠」運動から始まった。
  • 分断はSNSの普及によって広がり固定化した。
  • トランプ支持者による議会襲撃事件は、世界にアメリカの国力の低下を印象づけた。
  • 分断の長期化は避けられず、民主主義陣営は傷ついた内向きなアメリカを前提に戦略を練らねばならない

今回は❸~❺について考えます。

アメリカはなぜ衰退したか②

分断の深まり

リーマンショックを機に始まったアメリカ社会の分断を促進した大きな要因が、SNSの普及です。SNSは同じ価値観を持つもの達だけで集団を形成し、好ましい情報しか信ぜず、好ましくない情報をフェイクと断定するので、分断が深まっていくのです。

世論はSNS世代から 金融市場も揺るがす

2021年9月16日 [有料会員限定]

米国でSNSを使った運動の原型になったのがウォール街占拠。米国で少なくとも1種類のSNSを使う人は11年に5割程度だったが、21年は72%に増えた。21年1月6日には、トランプ前大統領の支持者らによる米連邦議会議事堂の占拠事件が起きた。米大統領選で不正があったとの偽情報や、陰謀論を信奉する「Qアノン」はSNS上で急拡大した。

ウォール街占拠に集まった人々は、自称「民主社会主義者」のサンダース議員の下に結集し、2016年の予備選挙でサンダース旋風が起こります。その後若年層を中心に民主党の中で社会主義的な考えに共感する人々が増えていきます。民主党内部も分断されていきました。

米止まらぬ「草の根」の反発 格差拡大、政策にも影響

2021年9月14日 [有料会員限定]

若者の間で資本主義に懐疑的な考え方を持つ人が増えている。米メディアのアクシオスなどが6月に実施したアンケートによると、18~34歳の回答者のうち、資本主義という言葉を肯定的に捉えると答えた割合は49%にとどまり、19年調査(同58%)から低下。一方、社会主義に肯定的な反応を示した比率は5割に達した。

トランプ政権の4年そして議会襲撃

左の地図は、トランプ大統領が誕生する前の州ごとの個人所得の増減を表したもの。右の図は、2020年の大統領選挙でトランプが勝利した州(赤)を示しています。所得が減少あるいは増加幅の小さい州と、トランプ勝利の州がほぼ一致しています。「ウォール街占拠」に表れた既得権層(エスタブリッシュメント)への反感を持った白人労働者層の支持を取り込んだのがトランプ氏でした。

州別個人所得の増減

米議会占拠1年、癒えぬ分断の傷痕 揺らぐ民主主義

2022年1月6日 [有料会員限定]

「民主党に選挙を盗まれた」と主張するトランプ氏への支持はなお厚い。21年12月中旬に米マサチューセッツ大学が実施した世論調査によると、20年11月の大統領選挙でのバイデン氏の勝利が「不正だった」と33%が答え、21年4月の34%と同水準だった。野党・共和党の支持者に限ればその比率は71%になる。

トランプ氏とその陣営が訴える「選挙不正」に対する有力な証拠は皆無だが、支持者の意識は変わらない。SNS(交流サイト)の影響は甚大だ。「トランプ氏の勝利を信じたい人々は、そのバイアスに沿う情報だけを集める。人々は全く違う世界に生き、同じ真実を共有しようとしない」とスタンフォード大学シニアフェローのフランシス・フクヤマ氏は言う。

超す政治学者が21年11月下旬、共同の論文で警告した。共和党が議会勢力を握る州で、選挙管理の担当部署に投票結果を覆すことができる権限を付与する動きがあることを憂慮する。

米民主主義の揺らぎは、選挙による審判の圧力にさらされていない強権勢力を利する。昨年12月、オンラインで会談した中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とロシアのプーチン大統領は民主主義との競合で共闘することで一致した。


バイデン大統領は、民主党内での左右の分裂のために、看板公約を果たせないでいて、支持率は2年目としては歴代最低水準に沈んでいます。このまま中間選挙で民主党が両院で過半数を割る可能性が高く、26年の大統領選挙でトランプ氏が返り咲く可能性も現実身を帯びてきました。

アメリカ社会の分断は、今後も長く続き、どんな政権になったとしても国内政策で手一杯で、外交的には内向きにならざるを得ないと考えられます。24年には台湾で総統選挙があり、蔡英文氏が再選されることになれば、アメリカの衰退が著しい今なら台湾を武力統一できると、習近平氏が考える可能性は十分にあります。その時、民主主義VS権威主義の勝敗の分かれ目が来ることもまた確かです。(K)

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